源実忠(その4)
こうして実忠様は、今度は、白銀の火取り(香炉)に、白銀の籠をつくって被せて、沈香をつき砕いて粉にし、灰を入れ、自分の恋心を込めて黒方という薫物を練り合わせ、
一人のみ 思う心の 苦しきに 煙もしるく 見えずやあらなん
(この火取りの下燃えの煙がはっきり見えるように、わたしの一人であなたを思う心もいかに苦しいものか、あなたにはっきり見えるでしょう。)
きっとこの煙は雲になるのでしょう。」と書いて、人目につかないように
「兵衛の君のもとに」と上書をしてあるものを、兵衛の君がわたくしに見せました。
「風流なもののようですね。」と言うと、
「いかがですか。これについて、何かお言葉を賜れませんか。時々は御返事をなさいませ。」と兵衛の君が言います。わたくしは、
「まあ、何と言えばいいのか分かりません。そのうちに、習ってからにしましょう。」と言いました。
実忠様は、
「いつものように、御返事をお書きにならない癖は、まだおやめにならないのですね。」と言ったそうです。兵衛の君は、
「『あなたが御覧なさい』と冗談にしてしまわれて、笑っていらっしゃったので、それ以上は何も言えませんでした。」と報告したそうです。
実忠様は、趣のある蒔絵の箱に、絹や綾などを入れて兵衛の君に渡し、なおもわたくしに取り次ぐように頼まれたそうです。
「このようにおっしゃるので、わたしも、実忠様のお気持ちを伝えようと頑張るのですが、あて宮様がうまく紛らわされてとりとめのないことにしておしまいになるので、はっきりとお伝えすることができないのですよ。」と兵衛の君が言うと、
「なぜ、そのような態度なのでしょうか。私の兄の民部卿の実正様は、七の君の婿、左近中将の実頼様は、四の君の婿です。なぜ、この実忠を思い落されるのでしょう。後で生まれたものの方が優れていると言いますのに。寿命はわかりませんが。」と、恨み言を言われたそうです。
「実忠様が悪いということではないのです。私の仕えているあて宮様は、どういうお考えなのか、独り身でおわしますべきお方であるようです。妹君が、次々に大人になられますから、その方々の成長をお待ちください。」などと申し上げたそうです。
(せっかくのプレゼント攻勢も、わたくしの心を動かすことはできませんでした。)




