源実忠(その3)
兵衛は、この紙を持って退出してきて、実忠様に、
「あて姫様に桜花をご覧に入れ、わたしのもとに下さったものですと申し上げたら、紛らわしてお笑いになり、御前でそこに居た女房が書いたものです。」と申し上げた。実忠様は、
「果たしてそうであったか。この字は、兵衛のものではないか。」とおしゃったそうです。
(すぐに、ばれましたね。)
「御返事のないのは、いつもの事です。『降る雪』というではありませんか。」
(山近み めずらしげなく 降る雪の 白くやならん 年つもりなば(後撰集))からの印歌で、めずらしくない、の意味です。)と答えたそうです。それから、
「本当は、こんな戯れ事は承りたくないのです。あて宮様は、たとえ冗談にも、このような真心のこもらないあだごとにお返事などなさいませんよ。」と申し上げたそうです。
それでも、実忠様は、
「やはり、御返事をすこしでもいいから見たいのです。もし、いただけたなら、そのあとはもう、何も送りません。『人の身に、我が魂通わなん』(相手に恋心が届くだけでよい)などとは、自分の思いを相手が知らない時にしか言えませんよ。(知ったからには、おへんじをいただかなくては。)」などと言っていらっしゃる。
(次は、会いたいと、要求はエスカレートするに決まっているのに。兵衛の君は困っていることでしょう。でも、わたくしは、取りあう気持ちは、まったくありません。)




