源実忠(その2)
さて、宰相である源の実忠様は、あて宮の乳兄弟である兵衛の君に、自分の思いを伝えています。
「ほんの夢のような御返事でもいいのです。ぜひ、見せてください。」とおっしゃいました。そして、花桜のたいそう美しい花びらに、
「思うこと 知らせてしがな 花桜 風だに君に 見せずやあらなん
(あて宮様を恋い慕う私の気持ちをどうにかしてお知らせしたいものです。風でさえ、この桜花の美しさを、あなたに見せていますのに。)
せめてこの桜花をご覧になってください。」と書いて、兵部の君に、
「これをご覧に入れてください。」と言って持たせられました。
「まあ、恐ろしいことです。あて宮様への恋文を取り次いだなどと、父君の正頼様に知られたら、私の身は、塵泥になってしまいます。」と申し上げると、
「何を言うのだ。特別なことを申し上げているのではない。花をご覧に入れるだけではありませんか。下心などあろうことか。落ち着いて持っていらっしゃってください。」と答えられました。
「それならば、いただいてまいりましょう。いつものように、御返事はいただけないと思いますが。」と申し上げましたそうです。
仕方なく受け取って、あて宮の前で、紙に、
「ほのかには 風の便りに 見しかども いずれの枝と 知らずぞありける」
(かすかに風の便りで花桜は拝見しましたが、どちらの枝のものとも分からないでおります。あなたに興味はございません。)と書いて、
「このようにおっしゃいました。」と申すので、わたくしは、
「誰でしょうね。あなたにこんなことを言うのは。」と言いました。




