平正明(その1)
さてまた、春宮の従兄である、平の中納言と呼ばれる平の正明という人は、たいそう優れた演奏家で、色好みで、世間の美しいと評判の女は、御子であろうと、帝のお子を産んだ御息所だろうと、言い寄らないものはないと言われるほどの好色家でいらっしゃいました。
この方も、わたくしに思いを伝えるすべを探していらっしゃいましたが、同母兄の十郎、兵衛の尉頼澄様がこの平の中納言の屋敷に通っていらっしゃいました。
(兄弟姉妹が多いと、つてもたくさんあって大変ですこと。)
「実は、あて宮様をお慕いしているのです。御文を持って行っていただけませんか。」と、正昭殿に頼まれると、
「なぜお断りすることがありましょうか。お任せください。」と承諾なさったのでしょう、御文をお遣わしになりました。
それには、
「さざら波 立つをば知らで 川千鳥 羽いかなりと 人に告ぐらん
(私の胸に波が立っているのもご存じなく、川千鳥のように美しいあなたは、なぜ羽が濡れるのかしら、などと人に言っていらっしゃるのでしょうね。)
と、思っているのさえ、悔しく思われます。」などと書いてあります。
頼澄様は、文を受け取って、わたくしを呼び出されて、文を見せられたので何気なく見てしまいました。
おどろいて、
「嫌な手紙を見せられますね。」と言うと、
「わたしではありません。そんな文をお見せしませんよ。中納言の平の正明の文です。」とおっしゃるので、
「嫌なお方ですね。」と言って、急いで立って行ってしまおうとしたら、兄君は無理に文を懐に押し込んでこられました。




