藤原兼雅(その2)
「今更、若い人のように恋心を抱くのは気が引けるので、お話しせずにおこうとも思ったのですが、そのまま打ち明けずにはいられないので、まず、あなたに打ち明けようと思いまして。左大将家では、姫君の婿を、皆、屋敷に住まわせていらっしゃると聞き、うらやましく思っています。なぜ、わたしも婿として迎えていただけないのだろうかと思いまして。」と、兼雅殿がおっしゃるので、兄祐澄が、
「他に住むところのない婿を、そのように住ませていらっしゃるのです。御自分の屋敷に北の方がおられるあなたが、なぜそんなことをおっしゃるのですか。」と言われると、
「『玉の台も』(思う人と一緒でなければ意味がない)というではありませんか。実を言うと、中の御殿にお住いのあて宮様を、まだ幼少であられたときから慕っていたのですが、今は深く恋していると言わずにはおれないのです。あなたが若宮に恋したことを思い出して、私の思いも察してください。」といわれたそうです。
それを聞き、兄君は笑いながら、
「そのようなことがあり、わたしは、色好みという噂が立って、世の中に知られてしまい、騒ぎになったので、今は忘れてしまいたいです。
さて、あて宮は、どういうわけでしょうか、姫は、家に置かれず、御殿に住まわせるのに、あて宮一人は大切にご自分のもとに住ませていらっしゃいます。じつは、春宮から女御にとお話があったのに、その返事もしていないのです。とはいえ、あなたのお気持ちは、あて宮に伝えましょう。」とおっしゃると、
「わが君よ、感謝の気持ちはとても言いつくすことができません。
われ一人 いうに飽かねば 紅の 袖も告げなん 思う心を」
(私一人でこの気持ちを訴えても、十分ではありませんから、血の涙で真っ赤に染まったこの袖も、いっしょにおもちください。)と詠まれました。兄君は、
「思うこと 多かる袖の 色を見て 一人頼まん ことの苦しさ」
(たくさんの姫君を思って真っ赤に染まっている袖を見れば、あなた一人を頼りにする妹のことが心配です。)と返されたと、兄から聞きました。
(ずいぶんお年上で、北の方も、その他の思い人もたくさんいらっしゃる方なんて、考えられないのですが。)




