源実忠(その1)
姉妹は皆、美しくいらっしゃる中で、葉月が転生したあて宮は、十二歳にして裳着の儀を済ませると、すっかり大人の女性となりました。こんな美人に転生できるなんて、とても幸運です。性格は利発で当世風、分別もあり、非の打ちどころがありません。父母に大切に育てられ、わたくしの将来も、あれこれと考えていらっしゃいます。
そうこうしているうちに、民部卿実正と中将実頼の弟で、左大臣源季明殿の三男である実忠という参議の方が、わたくしに片思いをされたようです。例によって、御簾のむこうに生霊が現れました。実体ではないので、決して御簾を越えることはなく、安全にお話が聞けます。
「どうにかして、あなたに恋心を伝えようと思うのですが、あなたの御父上に申し上げても、決して許してはくださらないでしょう。といって、こっそりとあなたに恋文をおくるのも、参議らしくもない軽率な行動と思われるでしょう。兄の民部卿実正の北の方は、あて宮様の同母姉の七の君ですから、こちらにこの恋心を打ち明けようと思っています。」
(七の君は、わたくしに恋の仲介などなさらないと思うけれど。)
またの日に、
「あて宮様の乳母の子の兵衛の君と仲良くなりました。容姿も心ばえもよい女房です。兵衛の君に、『実忠が、この御殿に参っていることを、あて宮様にお知らせくださいましたか。』などと、あなたに恋していることを伝えました。」と言われます。兵衛は、
「他にどんな冗談をおっしゃっても構いませんが、あて宮様に恋しているなどという冗談は行ってはいけません。」と答えたといわれました。
(本気にしなかったようね。)
ところが、実忠様は、
「『人のういごとはとがめぬもの』(初恋はとがめたりしないもの)というではありませんか。」などと言ってから、
「思い余っているからこそ、話す相手を大勢の中で特にあなたに話したのです。」とおっしゃったそうです。兵衛はあきれて、
「それでは、本気で言っていらっしゃるのですか。本気なら、こんなことはおっしゃらないはずですが。」と言ったそうです。
また、ある時、珍しい雁の卵が出てきたので、それに歌を書かれたそうです。
卵の内に 命籠めたる 雁の子は 君が宿にて かえらざらなん
(あなたがまだ幼くていらっしゃるときから、卵の中に気持ちを込めている雁の子である私は、あなたのいらっしゃるこの家でこのまま卵がかえらないようにこのまま帰らないでいたいのです。)
と思って毎日を過ごしています。」と言って、
「これを中の御殿で見てください。人に見せないで下さい。」と言って持たせるので、兵衛の君は、笑って、
「歌を渡すだけですか。恋の手引きをして、罪を犯すようでは困ります。わたしは、まじめにお仕えしているのですよ。」と言ったそうです。
兵衛が、わたくしに、
「巣守になり始めている雁の子をご覧ください。」と言って見せたので、
「卵は孵る物なのに、無理なお願いですね。」と言いました。
(どうも、この方は、変なことをなさる方ね。)




