藤原の君(その1)
昔、「藤原の君」と呼ばれる、天皇の皇子で臣籍に下り、一代目の「源氏」を賜った方がいらっしゃいました。
この方は、童でいらっしゃったころから評判が高く、顔かたち、こころ魂、その身の才覚が人並み高く、学問にも熱心で、楽器の演奏の才能も素晴らしかったそうです。ですから、この方を見る人は、
「やはり恐れ多い方だ。帝になられて国を治められれば、天の下が豊かになるであろう。」と、世の人がこぞって話していました。ですから、上達部や親王たちは、ぜひ我が家の婿に、と思っておられました。
そのような中、時の太政大臣の一人娘に、元服なさった夜婿に迎えられ、この上なく大切にされて太政大臣邸に住まわして差し上げられました。
(そういえば、源氏物語の源氏の君も、元服の時、左大臣が娘の葵の上の婿にしていましたね。宇津保物語の方が先に書かれていますが、そういう習慣があったのかしら。)
また、時の帝の姉妹である女一の皇子が生まれた后腹の姫も、娶られました。父帝は、母后に、
「この源の姓を賜った者は、今現在よりも、将来格別に出世する人です。私たちの娘は、このひとに与えましょう。」とおっしゃって、婿にとられました。
三日の夜、所顕しの席で、帝は酒を注いだ土器を手に、
「今日ここに我が女一宮の婿になったが、だからと言って太政大臣の娘を忘れてはならぬ。等しく通われるがよかろう。」などとおっしゃっいました。
岩の上に 並べて生うる 松よりも 雲居におよぶ 枝もありなん
(岩の上にめでたい松の木が日本並んで成長するように、雲がある天まで及ぶほど成長する枝もあるだろう。よい娘が生まれ、雲居である皇室で女御となり家が反映するであろう。いや、めでたい。)と、帝が詠まれると、この君は、
松の根を 植うる今日より 岩の上を 広き林と 人に知らせん
(めでたい松の根である女一宮様を妻と迎えましたので、この岩の上を広い林として人々に知らせ、一族繁栄を誓いましょう。)と詠まれました。
この席に呼ばれた人々が、次々に歌を披露されます。
右大臣橘の千蔭様、
岩の上の 苔の筵に 住む鶴は 世をさえ長く 思うべきかな
(岩の上に住むめでたい鶴のように、お二人は末永く仲睦まじく栄えることでしょう。いや、めでたい。)
左大臣源の忠経様、
卵の内に 昨日は見えし 鶴の子の 今日は上にも ならび居るかな
(昨日までは、卵の中に居られると思っていた姫君が、今日は婿と並ばれるのを見て、立派に成長されたことを慶びます。いや、めでたい。)
中納言雪忠様、
葦鶴の うつる千歳の 宿りには 今や砂子の いわとなるらん
(あしたづのように美しい女一宮が宿る藤原の君の宿は、砂が岩になるまで千年の間栄えることでしょう。いや、めでたい。)
この物語に登場する藤原の君が、我が父君源正頼、女一宮がわが母大宮です。




