仲忠(その14)
わたしは、仲澄様に、
「内裏にて、時々お会いする機会はありましたが、細かい話はできずにおりましたが、たいそううれしいことにここにいらっしゃったのですね。」と言いますと、
「まことに恐縮です。仲澄も、お話ししたいと思いながら、お暇もなさそうでしたので、お話しできなかったのです。」と答えられました。
「帝の傍に控えているときも、父一人しか後見してくれて、それ以外に知っている方もなく、心細く思っていました。これからは、友として近くで話し相手をしてください。ところで、このごろ内裏にあまり参内なさらないのは、どうしてですか。」と聞きますと、
「どういうわけか、気分が悪く、宮仕えもせずにおります。」と言われました。
「どうしてそのようなことが起きるのでしょうか。もしや、見ぬ人を恋うる病ですか。」
(『われこそや 見ぬ人 恋うる病すれ あふひ(葵あおい・逢あう日ひ)ならでは やむ薬なし』(拾遺集)を踏まえた言葉ですね。)
と言いますと、仲澄様は、笑われて、
「今はあふひ(葵・逢う日)も用がありませんよ。」と答えられました。
(たいそう優雅な会話です。)
わたしが、
「春宮様が、わたしには母方の親族も兄弟もいないのだから、あなたと親交を深め、話をし、話を聞きなさいとおっしゃいました。」と言うと、仲澄様も、
「仲澄にもそのようにおっしゃり、少将仲頼様と兵衛佐行政様は兄弟の約束をしたから、そなたたちもそうしなさいと言われました。」
「なんとうれしいことでしょう。」と、互いにいろいろ語り合いましたが、仲澄様は、
「ひどく酔ってしまって、言いたいことが全部は言えない。」とおっしゃるので、
「日頃思っていたことをお話しできたのは、今宵の喜びです。今度は、あなたのお屋敷に参りましょう。」と答えました。そうして、仲澄様は、帰って行かれました。




