仲忠(その12)
それを聞き、わたしは、調べを変えて弾きました。(ここで、手を惜しんでは、正頼殿にも、美しい姫にも、恥をかかせることになります。)
「おもしろきこと限りなし。」
「仲忠が、このように弾いたことはないのでは。」
「帝の御前で弾きしより、格別に素晴らしい。」
と、みな驚いていらっしゃいました。
この音は、わたしが幼少の頃より年功を積んで習ってきたものです。親しみがあり柔らかく、たいそう趣深く弾きました。みな、感激して聞き入っておられました。初めに少し弾いた時でさえ、屋敷中に音が響いていましたが、ゆいこくの手を曲を三曲、音色のかぎりかき立てて弾きますと、皆熱狂されました。正順殿は、一層感激され、着ていらっしゃった御衵一襲をぬいで、
「あなたのうなじが寒そうなのは、かかれば(かくあれば、かずければ)であろう。」とおっしゃっって、
「みな人を うずむ紅葉のかからぬも 風吹く松と 思うなるべし」
(ここに居るすべての人を埋めている紅葉が、あなたにだけかからないのは、あまりの素晴らしい琴の音を、風吹く松だと思って、紅葉が遠慮しているからでしょうか。)
と詠まれました。わたしは、
「みな人に 垣ほの紅葉 かかれども 散らせる枝は ねたしとも見ず」
(ここに居る皆様に紅葉〈被けもの〉が掛かっていますが、散らせる枝〈それを松風で散らせたわたし〉は、妬ましいとはおもいません。)
と返しました。




