俊蔭の娘(その44)
わたくしを馬に乗せ、兼雅殿と子が馬を引いたり支えたりしながら、お供の者が待つところまで山を下り、供人の馬に兼雅殿と子が乗って、お供の者がわたくしを支えながら、秋の夜を一晩かけて山から出て、三条大路より北で、堀川よりは西にある家に着きました。
お供の二人には、固く口留めなさり、
「もしこのことが世のうわさになれば、お前たちまでも罪に充てるぞ。」と戒め、自ら用意されたところに連れて入られました。誰にも知らせていらっしゃらないので、大殿油(室内用の明かり)を持って来る者もおらず、暗くて何も見えませんでした。兼雅殿は、自ら格子を一間上げて見られると、秋のあさの光に、磨き上げた室内が見えました。わたくしは、何の装飾もなく、簡素で半端な状態で不釣り合いであるのに、『いいようもなく美しく、類ないほどで、天女を連れて降りてきたようだ』と思われたということでした。子も、何と言うこともない水干装束(少年の私服)であるのに、容姿が優って格別に見えたそうです。
兼雅殿が、あまりわたくしをじっと見ていらっしゃるので、わたくしが暗い方へと入りましたら、兼雅殿も奥に入って来られました。そして、子に、
「そなたは、そこに寝なさい。眠たいであろう。」とおっしゃいますが、子は珍しがって端の方に行き、御前の庭の様子を見ていました。
こうして、わたくしは、穏やかに過ごすことができるようになりました。あて宮様、長々しいわたくしの話を聞いてくださり、ありがとうございました。
わが子のこと、御心に掛けていただけますと幸いです。
そう言うと、俊蔭の娘の姿も、わたくしの几帳の前からかき消えました。あまりに苦労の多い物語の前に、わたくしはしばらく茫然としておりました。ところが、次の夜から、今度は俊蔭の孫が現れたのです。




