俊蔭の娘(その42)
わたくしは、
「あまりにも昔の事なので、そうおっしゃることもよく思い出せませんが、夢を見ているような心地です。そのようなことも、あったような気がします。このように貧しておりました上に、子も生まれましたので、肩身の狭い思いをし、このような有様を人に見せまいと思って世間とは離れて暮らしておりました。昔でさえ、不幸な身と思っておりましたのに、今はそれ以上のひどい有様になっております。」と、泣く泣く申し上げました。
「そんなことはありません。あなたが、お世話をする人に会われて、世間並みに立派な暮らしをしていらっしゃったなら、昔の気持ちは失わなくても、悲しいことだと思うでしょう。このような暮らしをしていらっしゃるのを見れば、ますますあなたを大切に思う気持ちが深くなります。ともかく、あなた方を、お迎えに参りました。ここよりも、もっと、人目のないところにお迎えします。そこで、何の心配もなくお暮しになって、お気持ちを晴らしてください。」と、おっしゃいました。わたくしは、
「ほんとうに、良きこととは存じますが、『今はもう、人の世と深くまじわうまい』と決心してまいりましたこの山路を、今更帰っていくのも恥ずかしいことです。ただこの子だけを、我が子がいたのだと思ってくだされば、わたくしも安心して、後顧の憂いなく仏道に精進できることをうれしく思います」と申し上げ、山から動こうとは思いませんでした。
あちこちのページが閉鎖され、なろうにインできず、続きが書けないのではと思いましたが、復旧されてよかったです。




