俊蔭の娘(その37)
子は、
「わたしが思うに、この山に住んで八年になります。つらいことも、悲しいことも、もう慣れました。何をしに出て行こうというのでしょうか。このままでいいと思います。」というので、
「それならば、そうお返事なさい。このように憂き身なので、今更良いことなど起きないでしょう。このようにめったにない有様を見られて、同情していらっしゃるのでしょう。深い考えがあるわけではなく。」と言いました。
子は、
「母は、今更どうして世の中に出ることができましょう。山の見る目も恥ずかしいといって、動きません。わたし一人山を出るのでは、何の甲斐もありません。」と言いました。日も傾いてきましたので、兼雅殿は、
「何を無理にと申しましょうか。今日は、帝のお供をして参っています。帝が帰ってしまわれては具合が悪いですので。」と言って立ち去られました。
ちょうど、いつもの猿が、子猿を六、七匹連れて、さまざまな葉に椎、栗、柿、梨、芋、野老などを入れて持ってきたので、兼雅殿は、気の毒にこの獣に養われているのだなとご覧になったということです。いつもと違う人間がいるので、猿たちは食物を置いて驚いて逃げていきました。
(一度で説得は難しい様子など、とても詳しく描写されています。平安時代のファンタジーも、とても設定が現実的で、すごいなあ、と思いながら聞いています。そして、動物たちも、とてもいい方たちです。)




