58/75
俊蔭の娘(その35)
兼雅殿は、もしわが身を恥ずかしいと姫が思われれば、ここよりもっと奥に入ってしまわれるかもしれぬと思い、
「たいそう心打たれ気の毒なこともあるものですね。あなたは、このまま籠っていたいと思っていますか。それとも、世間の人のように暮らしたいと思っていますか。」とおっしゃるので、子は、
「何をおっしゃいますか。世の中とは、つらいものです。人として生まれながら、どんな前世の業なのか。このような獣に囲まれ、獣を友とし、獣に養われて、今日食われるか、明日食われるかといつ我が身を差し出さねばならないかと魂の休まる暇もなく、恐ろしく悲しい目を見なくてはならないのでしょう。前世に犯した罪を思うと、天地に許されることのない身でございましょう。髪を下ろして出家し、もっと深い山に籠ろうかと思っています。」と言ったそうです。
兼雅殿は、それを見ると、出家させるには惜しい美しさで、十五、六歳くらいに見え、たいそう立派なので、他人であっても気の毒なのに、まして我が子であるので、涙を止めることができないでおられました。




