俊蔭の娘(その25)
涙を流しながら子がこのようにいう時に、雌熊も雄熊も、荒ぶる心を失くし、子熊を引き連れて、この洞穴を、子に譲って他の峰に移っていったそうです。
こうして、子は、この木でできた洞穴を譲り受け、木の皮をはぎ、苔を敷くなどしてここを整えました。例の芋を教えた童が出てきて、洞穴の周りを掃き清めると、泉が湧き出てき、掘り改めたので、水の流れが風流になったそうです。子は、たいそう喜び、わたくしのもとに来て、
「どうぞ、来てください。わたしが、お連れする所へ。ここにいらっしゃても、わたし以外の人は来ません。わたしが、このように出歩いていると、母上はただ所在なくわたしの帰りを待たれるだけで、苦しいことでしょう。良きにつけ、悪しきにつけ、出歩かねばなりませんが、人に使われて馬や牛を飼うものになれば、下衆の母と言われることでしょう。それで暮らしがよくなるとは思えません。同じ事ならば、人に知られないように、山奥に籠って暮らそうと思います。
心の中では、少しでも母上のところに帰りたい、できることなら飛ぶ鳥につけてでも食べ物を早く差し上げたい、と思っているのですが、そうもいきません。どうぞ、来てください。わたしが、お連れする所へ。来てくだされば、木の実一つでも、すぐに差し上げることができます。長い時間出歩くことも失くなるでしょう。」と言ったのです。




