俊蔭の娘(その17)
嫗が、見た夢について、語ってくれました。
「たいそう美しくつややかで滑らかなくけ針(糸目を見せないように折り返しをまつるときに用いる細長くしなやかな針)に、薄青色の糸をよって一尋半(2メートル強)ぐらい通したものを、鷂(小型の鷹)が姫君の前に落としました。それを尊い年を取ってやせた行者が姫君の着物のおくみに長く縫い付けて立ち去りました。そして、しばらくしてから、鷂が、針を探すようにそのあたりを飛び回り、姫君がお持ちだと見て、袖の上にとまっていました。」
「まあ、不思議な夢ですね。」と言うと、嫗は、
「はい。あまりの不思議さに、夢あわせをする者のところで、夢を合わせて見ましたら、『たいそうよき夢です。その姫君は、上達部(上級貴族)のお子を産み、そのお子によって幸運を得る方です。でも、姫君と男君の間は、絶えるかもしれません。』と申しました。そうであれば、姫君の御栄えの初めでございましょう。
針の夢を見て生まれた子は、とても尊い親孝行の子だと申します。嫗の只今、丹波に居る娘を産んだ時見た夢は、使いやすい手作りの針の穴がはっきりした物に、信濃のはつり糸(織物などの端をほぐして、縫い糸にしたもの)を程よい長さにして嫗の着物に縫い付けた夢でしたが、たいそうな親孝行で、この子のおかげで生きています。先月も、白米を三斗五升、大麦を七斗くれましたので、お産の準備ができたのです。
何をそんなに悩んでいらっしゃるのです。五歳か六歳の幼子のように。およそお子を産まれた方のようではありませんよ。父君を恋しく思って嘆いてばかりいらっしゃるものではありません。せっかく美しい器量でいらっしゃいますのに。」と言いました。




