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俊蔭(その4)

 口にするのは、花の露や紅葉の雫でした。そうして過ごしているうちに、翌年の春ごろから木を切り倒す斧の音が聞こえるようになりました。西の方、はるか遠くから聞こえるのです。


 わたしには、その音が、不思議なほど空高く響いて聞こえるのです。きっと優れた音の出る木に違いないと思い、琴を弾き、詩を口ずさみながら三年の間聞き続けていました。しかも、その音は私の弾く琴の音にどんどん似てくるのです。しかし、どんなに周りを見渡してみても、この山のほかに山は見えず、ここよりほかに世界はないように思われるのに、私の琴の音に通じる木を切り倒す音が響いているのは、いったいどういうわけなのでしょうか。この木のある場所を探し、琴を一つ作りたいものだと思い、三人にしばしのいとまを願って、音のする方に出かけて行ったのです。


 できるだけ速くと、急ぎに急ぎ、気力を尽くして、海を越え、川を越え、峰を越え、谷を越えるうちに、その年は暮れてしまいました。また、そのあくる年も、暮れてしまいました。


(なぜか、仙人のように花の露や紅葉の雫を口にしながら、ひたすらに旅をする俊蔭でした。)

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