俊蔭の娘(その14)
わたくしは、自分が懐妊していたことを知り、一層悲しい気持ちになるとともに、はづかしい気持ちもあり、泣いていました。それを見て嫗が、
「はい、どういたしましょうか。嫗が知っているからには、困られることはありませぬ。御心配なさいますな。野山に分け入ってでも、御仕度は整えます。お子は、我が家の宝におなりでしょう。身二つになられましたら、この嫗が背負いましてでも、お子は育てて見せましょう。姫様のお子のためなら、たとえ骨になろうとも、甘い乳が出ましょうぞ。私の白髪も、黄金、白銀となりましょう。どうしようもない、悲しいなどと思わないで下さい。ただお手を清めて神仏に、『安産でありますように』とお祈りください。また、嫗の長寿もお祈りください。」と、泣きながら言ってくれたのでした。
嫗は、思いめぐらし、まず、嫗の子の片田舎で暮らしている者の所に行き、お産のときに必要な物を用意してきました。
それから、何気ない様子で、
「留守の間は、いかがお過ごしでしたか。お屋敷の中に、何か、物と交換して役に立つ物がありますか。」と聞きました。
「さあ、どのような物なら、役に立つのでしょうか。」と言うと、
「何でもよろしいのです。ある物をどうにかして必要な物と交換し、お子を産み育てるのに使いましょう。」というので、とても美しく仕立てた唐鞍(儀式用の馬の鞍)を取り出しました。
「そうそう、これはとてもよく仕立てられています。他にも、何かありますか。」と言うが、
「他には何もみあたりません。」と言いました。
嫗は、この鞍を持っていき、これを売って、絹や布などを買って、準備を整えました。食事はわずかにして、出産の準備のみを心がけて進めていました。わたくしは、荒れた屋敷で、子を産むという自覚もなく涙を流している間に、嫗がすべての準備を終えていました。




