俊蔭の娘(その13)懐妊
そのあとも、わたくしも、若小君も、折に触れそれぞれで歌を詠んでいたのですが、それがお互いの目に触れることはありませんでした。
五月になり、わたくしがいつものように荒れた屋敷に居りますと、例の嫗が食事を持って参りました。そして、
「不思議なことです。姫様のお体の様子が、常のようではございません。もしや、誰かと近くで御物語をなさいましたか。」と尋ねました。わたくしは、
「そうですねえ。近いと言えば、蓬や葎(つる草)とならば、語り合いました。」と答えました。嫗は、
「まあ、なんということでしょう。そのようなことは、冗談でもおっしゃらないで下さいませ。この嫗には、御隠しなさいませんよう。嫗は、早くから気付いておりましたが、申し上げずにおりました。お相手の事は、お聞きいたしません。それよりも、いつから月のさわりは止まりましたか。お子が生まれるのも、近くなっているようです。その準備をしなくてはなりません。」と言いました。
「不思議なことをお言いですね。わたくしがどうしたというのですか。月のさわりは、九月ごろから止まっています。でも、そういうものだと思って気に留めていませんでした。」と答えると、嫗は、
「それならば、この月か次の月には、お子が生まれましょう。ああ何ということ。このようになってまで、今までそれと気づかれていらっしゃらないはかなさよ。嫗が亡くなってしまえば、どうなっておしまいになりますやら。姫君のためにこそ、つたないわが身の命も惜しゅうございます。」と言いました。
(なんとも世間知らずな俊蔭の娘です。嫗がいてくれてよかったです。)




