俊蔭の娘(その12)
若小君は、わたしの事を思い、わたしのもとに通いたいと思っていらっしゃいましたが、このように厳重に監視されておいでなので何もできず、夜も日も嘆いていらっしゃったということでした。とはいえ、若小君以外は、屋敷の場所を知る者もなく、使いの者をやろうにも、うろ覚えで、その位置をはっきり伝えることもできなかったということです。どうしたのかと、父や兄に問われても、言わないで、誰にも相談できず、心ひとつにおさめて千々に思いを砕いていらっしゃったということでした。
わたくしは、まるで夢のようであったと思っていたのですが、実は懐妊していたのでございます。それに気づかず、父母を恋しく思い、慣れない不遇の暮らしが心細いこと、若小君があの夜約束してくださったことなどを思いながら、秋の草木の色が変わり、木の葉が散るままに、涙を流しながら過ごしておりました。
わたくしは、夕暮れに、いなびかりがするのを見て、
「いなづまの 影をもよそに 見るものを 何に例えん わが思う人」
(あのいなづまの光でさえ、遠くてもこの目で見ることができるのに、つま(夫)の影さえ見ることができないとは。あの方を、いったい何に例えればよいのでしょう。)などと言ってみるものの、誰も答えてはくれません。
そのころ、若小君は、夕暮れに風が激しく吹き、虫が鳴き乱れるのをのを聞いて、
「風吹けば 声降りたつる 虫の音に 我も荒れたる 宿をこそ思え」
(風が吹くと、一層鳴き声を振り立てる虫の音に、わたしも、荒れた宿に住むあの人を思って涙があふれてくる。どんなに寂しい思いをなさっていらっしゃるだろうか。)とつぶやいていらっしゃったそうです。




