俊蔭の娘(その11)
若小君は、兄君にいいわけをされました。
「皆人が、わたしを置いて行ってしまったので、列を離れて迷子になった雁のような心持ちでした。」
兄君は、怪しんで、
「先に立ってどこかへ連れて行く雁がいたのだろう。それならば、夕べからずっとこの場所に立っていたと言われるのか。見るからに怪しい道祖神のようですね。」とおっしゃてから、
「それにしても、今この時も、父母はどんなに大騒ぎをしておられるのやら。」と、二人一緒に帰って行かれたそうです。
若小君は、わたくしのことを思い起こし、苦しい思いで父のところに帰られました。
「わたしが、若小君はを何とか探し出しました。」と兄君がおっしゃると、大殿は大変喜ばれ、放逐した男たちも許され、皆で喜んだということでした。
大殿は、
「いったいどんな事情があって、よそに泊まったりしたのか。いったいいつから、こんな夜歩きを覚えたのか。まったくもってのほかである。我にこれほど心配をかけるとは。」と言って叱られたそうです。母君は、
「あの寂しい河原のあたりでは、盗人がたくさんいて人を殺めるそうです。そんなところに一人でいて、盗人に打ち殺されてしまったらどうなさるのですか。分別のないことです。宮仕えなどさせられません。忍び歩きを覚え、親から逃げ隠れようとするとは。私の傍から離れてはいけません。」とおっしゃったそうです。大殿は、内裏に参内するときまでも一緒に連れて行き、片時も目を離されなくなられたということでした。




