俊蔭の娘(その1)
「あて宮様、わたくしは俊蔭の娘にございます。父の話を聞いて下さってありがとうございました。実は、父の一生と同じように、わたくしの運命も、それは筆舌に尽くしがたいものでございます。わたくしは、他の御方に、この運命をお話しする機会がありませんでしたので、こうしてあて宮様にお話しできるのは、何にも増してうれしいことなのです。」そういううと、俊蔭の娘は語り始めた。
父が亡くなり、おなじころおい、乳母も亡くなりました。父は、官を退き身を沈めていた間、格別の収入もなく長い年月が経ってしまっておりました。父が亡くなったのちは、一人の使用人も残らず、わずかな調度品も壊れてしまい、何の分別もないわたくし一人取り残されました。世の中が恐ろしく、まるでいないもののように隠れ忍んでおりますと、通りかかった人が、屋敷を壊して持ち帰ってしまうので、ただ母屋一つ、それも周りにあるはずの簀子(縁側)さえなくなって、野原のようになってしまっていました。
わたくしは、乳母が使っていた下女で下屋に部屋住みをしていた老女をただ一人召し使っていました。父がいたときは、荘園に督促の使いをやったときには献納していましたが、このような状態になっては、荘園の管理をしていた者の小遣いになってしまいました。使っていた調度品も、混乱に紛れてどこかに隠され、皆失くなってしまいました。




