110/110
上野の宮(その6)
このような謀を、父左大将正頼様が耳にされ、大笑いをされました。
「わたしを取るに足りないものだと思って謀をされたに違いない。どうして諮られてなどいられようものか。」とおっしゃって、家司である滋野和政の少将に、
「道隆寺で上野の親王が盛大な法会を営まれるそうであるから、政所の家司たちを遣わして、見物の場所を取らせよ。若い娘たちに見物をさせよう。」とおっしゃいました。
和政の少将は、そのお寺に行って、正面の一番良い席を取りました。すると、上野の宮の家来たちが、
「わが宮に対して扱いの悪い方になど、どうしてよい席を取らせて差し上げることができましょうか。」というので、和政は、
「ただ、御車一台ばかりの事です。中の御殿の姫君(あて宮)が、『おもしろそうな法会ですね。』とおっしゃって、見たいとおっしゃいますから。」というと、
「よろしい。『仇には、徳を持ちて当たれ』と言うからな。」と言って、よい席を取らせたそうです。
その法会の日になって、下仕えの者の娘で、年若く器量の良い人を選んで、美しい装束を着せ、牛使いの娘を二人、木こりの童女を一人つけて、黄金の金具で装飾した牛車に乗せられました。枇榔毛(枇榔の葉で装飾した牛車)のくるま二台には、左大将正頼様の女房達を載せて出立しました。




