↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
儚げな猫耳美少女奴隷を買ったら、返り討ちで下僕にされました  作者: しばたろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/26

最終章 旅の終わり

「アルジャン殿」


 俺の前までやって来ると、カイルは両手で俺の手を握った。


「コルネを救ってくれて、ありがとう。本当に……ありがとう」


 大きな身体を小さくして、何度も何度も頭を下げる。


「いや、そんな……頭を上げてください」


 慌ててそう言っても、カイルはしばらく頭を上げようとしなかった。


 いいやつなんだろう。


 それが伝わってきた。


 そのあと俺は、カイルから、この一年の出来事を聞いた。


 麓へ降りていったコルネが、いつまで経っても戻ってこなかったこと。

 一族総出で山中を捜したこと。

 やがて、何者かにさらわれたらしいという話を耳にしたこと。

 それからも、カイルはコルネを探し続けた。

 

「みんな、もう諦めろと言いました。でも……無理でした」


 カイルが小さく首を振る。


「どこかで生きてるかもしれん。そう思ったら、諦められるわけがなかった」


 何度も山を下り、町から町へと訪ね歩いたらしい。


 けれど、この国は広い。


 そのどこかにいるかもしれない一人の少女を見つけ出すなんて、ほとんど不可能に近い。


「何度も思いました。もう二度と会えへんのやないかって」


 そう語るカイルの目から、涙がこぼれ落ちた。


 大切な人がいなくなる怖さ。

 もう二度と会えないかもしれないと思ったときの絶望。


 それなら、俺にもよくわかった。


 それでもカイルは、ずっとコルネとの再会を信じて待っていた。


 そして今日。

 

 ようやく、コルネは帰ってきた。


「すみません。こんな話をして」


 カイルが目元を拭い、照れくさそうに笑った。


「嬉しくて……どうも、あかんですね」


「いえ」


 俺も笑った。


「よかったですね」


「はい。本当に」


 カイルは大きくうなずいた。


 しばらくして、カイルが席を立つ。


 帰り際、扉の前でこちらを振り返った。


「今夜は、コルネが帰ってきた祝いの宴を開きます」


 そして、俺に深々と頭を下げる。


「アルジャン殿も、ぜひ参加してください。村のみんなにとっても、あなたは大切な恩人ですから」


「はい。もちろん」


「では、またあとで」


 カイルはそう言って、家を出ていった。


 閉じた扉を、俺はしばらく眺めていた。


◇


 その夜は、宴となった。


 族長の娘、コルネリア・ヴァル=バシュラが帰ってきた。

 村の広場には大きな宴席が設けられ、その周囲では大勢の獣人たちが酒を酌み交わし、料理を囲み、コルネの帰還を祝っていた。


 上座には族長バシュラと、その奥方――つまり、コルネのお母さん。

 そして、その隣にはコルネと、許嫁であり幼馴染でもあるカイルが並んで座っている。

 俺はというと、コルネを奴隷の身から解放した恩人であり、遠く人族の王国からここまで無事に連れ帰った功労者ということで、上座にほど近い上客の席へ座らされていた。


「アルジャン殿。このたびは、本当にありがとうございました」


 年配の獣人にヴェルザール族を代表して礼を言われたかと思えば、今度は筋骨隆々の若者たちに「名のある戦士なのか」と取り囲まれる。

 こんな上にも下にも置かれない扱いを受けたのは、生まれて初めてだ。


 だが、一番困ったのは——。


「なあ、アルジャンって彼女おるん?」

「今晩、うち泊まってかへん?」


 いつの間にか、若い猫耳娘たちに囲まれていた。


「ちょ、ちょっと……!」


 左右から腕に抱きつかれる。


 や、柔らかい。

 しかも、なんだかすごくいい匂いがする。


 一年前の俺なら、飛び上がって喜んでいただろう。


 女の子に相手にされなかった俺が、今では向こうから誘われている。

 夢にまで見た状況のはずだった。


 なのに——。

 不思議なくらい、俺の心は静かだった。


 ふと、上座へ目を向ける。

 コルネがいた。

 その隣には、カイル。

 二人で何かを話している。


 カイルが笑う。

 コルネも笑う。

 お似合いだと思う。

 二人は幼いころから、ずっと一緒だったという。

 俺の知らないコルネを、カイルはたくさん知っているのだろう。

 俺と出会うより、ずっと前から。

 楽しかったことも。

 腹が立ったことも。

 喧嘩したことも。


 きっと、数え切れないくらいある。


 そして、これから先も――きっと。


 そのとき、ふとコルネがこちらを向いた。

 目が合う。

 コルネは、そっと微笑んだ。

 俺は、手にしていた杯を、コルネに向かって少し掲げた。


(コルネ。よかったな)


◇


 翌朝。


 宴の余韻が残る広場には、まだ酔いつぶれた村人たちが転がっていた。

 俺は一人、荷物をまとめて背負い袋を担ぐ。


 これから、この村を出る。

 まだ静かな村を抜け、朝日に照らされた村の入り口へ向かった。

 

◇


「アルジャン」


 不意に、後ろから名前を呼ばれた。

 足を止める。

 

 振り返ると――。

 コルネが立っていた。


「……もう、行ってしまうんか?」

「はい」


 コルネはじっと俺を見つめる。

 何かを言おうとして、やめた。


「元気でな、アルジャン」

「コルネさんも」


 俺は背を向け、歩き出す。


「アルジャン!」


 振り返らず、片手だけを上げた。


◇


 山道を下る。


 下り坂は楽だった。

 足場の悪いところを避ける。

 危険そうな場所では周囲を確認する。

 獣道を見つければ、近くに魔物がいないか警戒する。

 そんなことも、もう自然にできるようになっていた。


 やがて日が暮れた。

 

 俺は野営できそうな場所を見つけ、荷物を下ろした。


 まず周囲を確認する。

 簡単な罠を仕掛ける。

 枯れ枝を集める。

 火を起こす。

 鍋を取り出し、水と干し肉を入れた。


 もう慣れたものだ。


 ぐつぐつと煮える鍋を眺めながら、いつものように器を二つ取り出しかける。


「……あ」


 器を一つ、荷物の中へ戻した。


 出来上がったスープを器によそい、焚き火の前で食べた。


 夜が更ける。

 草の上に毛布を敷く。

 横になって空を見上げると、満天の星が広がっていた。

 

 目を閉じる。


 毛布にはもう誰も潜り込んでこない。

 

(完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。