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儚げな猫耳美少女奴隷を買ったら、返り討ちで下僕にされました  作者: しばたろう


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24/26

24 「ただいま」が聞こえました

「……」

「……」

「…ええよ」


 差し出された小さな手を握る。


 じんわりと温かさが伝わってきた。


「ほな……次は肉やな!」

「はい!」


 俺たちは手をつないだまま、賑やかな市場を再び歩き出した。


◇


 翌朝。

 俺たちは、『ベルヴェディア』を後にした。

 

「このへんは集落が点在してるからな。山に入るまでは、野宿せんで済むで」


 そう言いながら、コルネが歩き始めた。

 俺も荷物を背負いなおし後を追う。

 

 眼前に広がる『ヴァルザック山脈』が朝日を受けてきらきらと輝いている。

 そこに向かう道を意気揚々と歩く旅装束の猫耳少女。

 

 美しい光景だと思った。

 いつまでも眺めていたくなるような光景だった。

 

 ふと、名案が浮かんだ。

 コルネを故郷に送り届けたあと。

 今度は俺から、一緒に旅に出ないかと誘ってみるのはどうだろう。

 もしかしたら、コルネなら「ええで」と言ってくれるかもしれない。

 そう考えると、自然と胸が弾んだ。

 

 二人でのんびりと平原を進むのは楽しかった。

 平坦な道。

 野獣や魔物の気配もない。

 暖かい日差し。心地よい風。

 

 どこまでも歩いて行ける。

 そんな気がした。

 

 夜は、集落の宿に泊まった。

 質素ながら心のこもった夕食をいただき、暖かいベッドで眠った。

 

 そんな穏やかな旅を続けること四日。

 楽しい時間はあっという間に過ぎ、『ヴァルザック山脈』の麓の集落にたどり着いた。

 

「いよいよ明日から山に入るで。まあ、安心しい。この山はウチの庭みたいなもんや」

 コルネの目が輝く。

 

◇


 『ヴァルザック山脈』の道のりは、これまで登ってきた山々よりも険しかった。


 しかし、道なき道だろうが険しい崖だろうが、コルネは軽やかに登っていく。

 さすが、「ウチの庭」と言い切るだけのことはある。

 俺も重い荷物を背負いながら、なんとかその後についていく。


 ときおり、先を行くコルネが振り返り、

「ほれ」

 と、手を差し伸べてくれた。


◇


 夜は早めに野営の準備に取りかかった。

 せっせと周囲に罠を仕掛ける俺を見て、コルネが呆れたように笑う。

「ほんま、好きやなぁ」


 枯れ枝を集め、火を起こす。

 鍋を取り出し、水と干し肉を入れる。

 ぐつぐつと煮える鍋を眺めながら、器を二つ取り出した。


「……できましたよ」

「おう。うまそうや」


 出来上がったスープを器によそい、二人並んで焚き火の前で食べた。


 やがて夜が更ける。


 草の上に毛布を敷き、横になって空を見上げる。

 満天の星が、夜空いっぱいに広がっていた。


 そのまま目を閉じる。


「夜の山は冷えるなぁ」


 そう言いながら、コルネが当然のように俺の毛布へ潜り込んでくる。

 俺も当然のように、その小さな身体をそっと抱き寄せた。

 コルネは何も言わず、俺の胸に顔をうずめた。

 

 暗闇の中、風が木の葉を揺らす音だけが響いていた。


◇


 山を登るほど、あたりの景色は変わっていった。

 周囲の山々は間近に迫り、雲海の隙間からは、ときおり麓の平原がはるか下に見えた。


 山に入って三日目の朝。

 なだらかになった山道を進んでいると――


「止まれ!」


 突然、上から声が降ってきた。

 見上げると、木の上から二人の男がこちらに弓を構えている。

 

 そのとき、コルネが顔を上げた。


「あ」

「コルネさま……?」


 コルネの顔が、ぱっとほころんだ。


「ただいま」


 二人の男は慌てて木から飛び降り、コルネの前にひざまずいた。


「よくご無事で」

「ずっと探しておりました」


「ああ。心配かけたようやな」


「おい、ダウル。お前は村に知らせろ」

「兄ちゃん、わかった!」


 一人が山道を駆けていく。


 残った若者が俺たちに向き直った。


「村までお供します」


 そして、俺を見る。


「そちらの方は?」


「ウチの仲間や。ウチをここまで送り届けてくれたんや。命の恩人や」


「それは……なんと感謝すればよいか。さあ、どうぞご一緒に」


◇


 しばらく歩くと、村が見えてきた。


「アルジャン。あそこが『ヴェル=グラッド』。ウチの故郷や」


 村をぐるりと囲む木の塀。その中央にある大きな門が開け放たれ、大勢の人たちが集まっているのが見えた。


「おとうちゃん! おかあちゃん!」


 突然、コルネが駆け出した。


 その先には、壮年の大男と、その隣に寄り添うように立つ女性の姿があった。


 コルネは勢いよく、二人の胸へ飛び込んだ。


「コルネ……コルネ……!」

「おとうちゃん……おかあちゃん……!」


 三人は強く抱き合い、何度も互いの名を呼びながら泣いた。


(ああ、よかった。本当に、よかった)


 そのとき――


「コルネ!」


 集まった人々の中から、一人の青年が叫んだ。

 その声にはじかれたように、コルネが振り向く。


「カイル!」


 コルネが駆け出した。

 青年も人混みから飛び出してくる。

 二人はそのまま駆け寄り、強く抱き合った。


「ずっと探してたんや。でも、見つけられへんかった。ごめん。ごめんな」

「ええんや。ウチのこと、待っててくれたんか?」

「当たり前や」


 待っていた――?


 その言葉に、何かが引っかかった。

 そして、思い出した。

 コルネと出会った、あの日。


『許嫁(いいなずけ)も待っとるやろうしな』


 確かに、そう言っていた。


(ああ……そうだった)


 どうして俺は、こんな大事なことを今まで忘れていたんだ。

 二人はまだ、抱き合っている。


 俺はただ、その姿を見つめていた。

 

◇

 

 コルネの両親は俺の手を取り、何度も何度も礼を述べた。

 そして、コルネを連れて村の中心にある族長の家へと入っていった。


 まずは身を清め、長旅の疲れを落とすのだろう。

 いや、そんな堅苦しいものではないか。


 家族団らん。


 きっと、そういう時間なのだ。


「アルジャン。あとでな!」


 家へ入る直前、コルネが振り返って俺に手を振った。


「はい。またあとで」


 俺も手を振り返した。


「さあ、アルジャン殿。こちらへ」


 声をかけてきたのは、村でもそれなりに偉い立場らしい男だった。

 俺はその人の家へと案内され、客人としてもてなされた。


 湯を用意してもらい、久しぶりに身体の汚れをきれいに落とす。

 そのあと、用意してくれた温かい料理をいただいていると、一人の男が訪ねてきた。


 カイルだった。

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