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儚げな猫耳美少女奴隷を買ったら、返り討ちで下僕にされました  作者: しばたろう


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20/26

20 最後に残った、一匹

 狼ロードたちは小屋の周囲をゆっくりと回り始めた。

 探している。

 罠を避けて、こちらへ近づくための道を。


 やがて、一匹が山小屋の背後にそびえる巨木へ向かって駆け出した。


「コルネさん!」


「見えとる!」


 狼ロードは太い根を蹴り、幹へ飛びつく。そのまま枝へ駆け上がると——。


 ——ドンッ!


 ついに屋根の上へと躍り出た。

 その瞬間。

 コルネが弾かれたように屋根の中央へ飛び退いた。

 俺も同時に、足元のロープを掴む。

 打ち合わせ通りだ。


「アルジャン!」

「はい!」


 ロープを思い切り引いた。


 ——ガコンッ!


 留め金が外れる。

 次の瞬間、狼ロードが着地した側の屋根が、ガクリと大きく傾いた。


「ギャウッ!?」


 突然足場を失った狼ロードが、急斜面と化した屋根を滑り落ちていく。


 だが——。


 ガリッ!


 屋根の端で、鋭い爪が板に食い込んだ。

 狼ロードの巨体が宙ぶらりんになる。


「グルルルッ……!」


 必死に爪を立て、這い上がろうとする。

 だが、そこまでだった。

 屋根の中央で、コルネが素早く弓に矢をつがえる。


「残念やったな」


 ——ヒュンッ!


 放たれた矢が、狼ロードの眉間を正確に射抜いた。


「ギャウッ……!」


 屋根板を掴んでいた爪から力が抜ける。

 巨体はそのまま、闇の中へと落下していった。


「一匹」


「……はい」


 仕掛けは、ちゃんと通用した。

 続けて二匹目が屋根へ躍り上がる。


 ——ガコンッ!


 結果は同じだった。

 足場を失って滑り落ち、屋根の端へしがみついたところをコルネの矢が射抜く。


 三匹目。


 四匹目。


 屋根へ上がってきた狼ロードたちが、次々と同じ運命を辿っていった。

 しかし——。


 ——ドンッ!


「えっ!?」


 今度は反対側から一匹が屋根へ飛び乗った。

 さらに、もう一匹。

 俺たちの仕掛けに気づいたのか、傾斜する屋根を避けて登ってきたのだ。


「下がっとけ!」


 コルネが弓を放り出し、腰の短剣をギラリと引き抜いた。


◇


「グルァッ!」


 狼ロードが飛びかかった。


 コルネは牙を紙一重でかわすと、すれ違いざまに短剣を首筋へ走らせた。


「ギャウンッ!」


 鮮血を撒き散らしながら、巨体が屋根を転がる。


 だが、もう一匹が背後から襲いかかる。


「コ、コルネさん、後ろ!」


「分かっとる!」


 コルネが身を翻す。


 振り下ろされた爪をかわし、そのまま懐へ潜り込む。


 ——ザシュッ!


 刃が腹を深く切り裂いた。


 狼ロードがよろめく。


 そこへコルネが身体ごとぶつかり、屋根の端から蹴り落とした。


「はぁ……はぁ……」


 コルネが短剣を構えたまま、肩で息をする。


「……やった?」


 俺は恐る恐る周囲を見回した。


 もう、動いている狼ロードはいない。


 その時——。


 ——ドンッ!!


 屋根全体が大きく揺れた。


「ひっ!?」


 振り返る。


 そこには、ひときわ巨大な狼ロードが立っていた。


「……ボスや」


 コルネが呟く。


 群れの最後方で、ずっとこちらを観察していた一匹。


「グルルルル……」


 ボスが低く唸る。


 コルネは弓を捨て、短剣を抜いた。


「アルジャン、下がっとけ」


「コルネさん……」


「こいつは——今までの奴とはちゃう」 



◇


 コルネとボスが、屋根の上で対峙する。


「グルルルルル……」


 ボスが牙を剥き、低く唸った。


 コルネは俺を背に庇うように立ち、短剣を構えている。


 けれど、その肩は大きく上下していた。

 これまでの戦いで、もう相当に消耗している。


 対するボスは——ほとんど無傷。


 俺にも分かった。


 コルネでも、勝てない。


「……コルネさん」


「なんや」


「あれを使います」


「……!」


 コルネが振り返った。


「あれか!」


「はい」


「……分かった」


 コルネは短剣を収めると、弓を手に取った。


 そして一瞬だけ俺の顔を見つめ——そのまま屋根から飛び降りた。


 ——ドンッ。


 軽やかに地面へ着地する。


 屋根の上に残されたのは、俺とボスだけ。


「……」


「グルルルル……」


 赤い瞳が、俺を睨む。


 怖い。


 足が震える。

 喉がからからに乾いて、呼吸すらうまくできない。


 ——死ぬかもしれない。


 そう思った。


 いや。


 失敗したら、たぶん死ぬ。


 ボスの牙が俺の首に食い込む光景が、ありありと頭に浮かんだ。


 逃げたい。


 今すぐ屋根から飛び降りたい。


 だけど——。


 ふと、地上のコルネが目に入った。


 弓を握り締め、心配そうに俺を見上げている。


 ……まあ、いいか。


 俺が死んでも。


 これでコルネが生き延びてくれるなら。


 それでもいい。


「……っ」


 震える足を前へ出した。


 一歩。


 ボスが俺を睨む。


 もう一歩。


 怖い。


 それでも歩く。


 一歩。


 また一歩。


 そして——。


 屋根のちょうど真ん中で、俺は足を止めた。


「……ここだ」


 ボスが低く身を沈める。


 俺は動かなかった。


 いや。


 怖くて動けなかったのかもしれない。


「グルァァァァッ!!」


 ボスが屋根を蹴った。


「ひっ……!」


 巨大な身体が宙を舞う。


 真っ直ぐ俺へ向かってくる。


「アルジャン! よけろ!!」


 コルネの叫び声。


 次の瞬間——。


 ドンッ!!


「ぐぇっ!?」


 ボスの巨体が俺に覆いかぶさった。


 背中から屋根へ叩きつけられる。


 息ができない。


 重い。


 潰される——!


 その時。


 ——メキッ。


 背中の下から、嫌な音がした。


 直後。


 ——バキバキバキッ!!


 屋根が抜けた。


「うわあああああっ!?」


「バウッ!?」


 俺とボスは、もつれ合ったまま山小屋の中へと落下した。

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