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儚げな猫耳美少女奴隷を買ったら、返り討ちで下僕にされました  作者: しばたろう


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19/26

19 山小屋で、決戦が始まります

 足音は聞こえない。

 それなのに、暗闇の奥から『狼ロード(オオカミ・ロード)』が一匹、また一匹と姿を現した。


 ゆっくりと、だが確実に小屋を遠巻きに取り囲んでいく。


 十匹——いや、二十匹はくだらない。

 篝火の明かりを反射し、無数の眼光が不気味な赤色に光っていた。


 ガタガタガタ……と、抑えきれない身体の震えが突き上げてくる。


 食われる。

 怖い——。


 恐怖で身体が固まりそうになったその時、隣のコルネが静かに立ち上がった。

 そして俺の頭に手を置くと、くしゃくしゃと力強く撫でる。


「大丈夫や。お前が作った砦や。……負けるわけない」


 その声も、ほんの少しだけ震えていた。


 ——ああ、そうか。

 怖いのは、俺だけじゃない。


 それでもコルネは立っている。


 なら、俺も立たなきゃ。


 俺は大きく息を吸い込み、震える足に力を込めて立ち上がった。


 二人で並び立ち、眼下に蠢く狼ロードの群れを見据える。


「ウウォォォォォォオオオ——ッ!」


 俺たちの姿を認めた狼ロードたちが、一斉に天を仰いで咆哮した。

 まるで「狩りの時間だ」と宣言するかのように、その凄絶な声が森全体を震わせる。


 ただ一匹。


 群れの最後方に佇む、ひときわ巨大な狼ロードだけは吠えなかった。

 燃え盛る篝火の向こうから、ただ静かに——俺たちを見上げていた。

 

◇

 

 コルネが弓を構え、矢をつがえる。

 俺はその背中にぴたりと自分の背を預け、反対側を見下ろした。


 怖い。

 足はまだ震えている。


 それでも、眼下に群がる狼ロードたちから目だけは逸らさなかった。


 ——ウォオオンッ!


 突如、無数の『狼ロード(オオカミ・ロード)』が一斉に小屋目掛けて駆け出した。


 ドドドドドドッ——!


 地鳴りのような足音が、夜の森を揺るがす。

 来る——!


◇


「コルネさん、正面!」

「おう!」


 先頭を駆けていた狼ロードが地面を蹴り、大きく跳躍した。


 だが——。


「ギャウッ!?」


 着地点には地面などなかった。

 勢いそのまま、俺の掘った壕へと滑り落ちる。

 コルネはその瞬間を見逃さない。


 ——ヒュンッ!


 放たれた一矢が、壕の底でもがく狼ロードのこめかみを正確に射抜いた。


「一匹!」


 だが、後続はすぐさま壕の存在に気づいた。

 急激に進路を変え、左右へ散っていく。


 ——そうだ。

 そっちへ行け。

 そこなら——。


 次の瞬間。


 ——バチンッ!


「ギャンッ!?」


 低く張り巡らせたワイヤーに前脚を取られ、一匹が派手に転倒した。

 後続まで巻き込み、二匹の巨体が地面を転がる。


「コルネさん、右!」

「おうっ!」


 振り向きざまに矢が放たれる。


 一匹。


「次、左!」

「任せとき!」


 二匹。


「正面!」


 三匹。


 俺が指示を出し、コルネが射る。


 壕へ落ちた狼を。

 ワイヤーに足を取られた狼を。

 仲間と衝突して体勢を崩した狼を。


 矢が次々と射抜いていく。


「す、すごい……」


 通用している。

 俺の作った罠が、狼ロードの群れに通用している。


 しかし、喜んでいる暇はなかった。


 群れの数が、あまりにも多い。

 仲間の屍を踏み越え、壕を飛び越え、ワイヤーを力ずくで突破した狼ロードたちが、ついに小屋へ到達した。


 巨体が次々と壁へ飛びかかる。


 ガリッ! ガリガリッ!


 鋭い爪が板壁を引っ掻く。

 だが——登れない。

 足場になりそうな突起や穴は、あらかじめ板で塞いである。


 狼ロードたちは何度も壁へ飛びついては、虚しく地面へ滑り落ちていった。


「よし……!」


 ここまでは、想定通り。

 やがて狼ロードたちが、小屋の一角へ集まり始めた。


 そこだけは違う。

 俺があえて塞がなかった、屋根へと続く唯一の登り口。


 一匹がそこへ飛びついた。


 登れる。


 そう気づいたのだろう。

 他の狼ロードたちも次々とその場所へ殺到する。


 一匹。

 二匹。

 三匹——。


 屋根へ向かって駆け上がってくる。

 

 まだだ。

 もう少し。


「アルジャン! 来るで!」

「待ってください!」

「でも——!」

「まだです!」


 先頭の一匹が屋根へ飛び上がった。


 その後ろから二匹目。

 三匹目。


 今だ!


「コルネさん、伏せて!」


 叫ぶと同時に、俺は手元のロープを思い切り引いた。


 ——ガチャンッ!


 留め金が外れる。


 直後。

 巨木の太い枝から吊り下げていた丸太が、大きく弧を描いて振り下ろされた。


 ——ドゴォンッ!!


「ギャンッ!?」


 屋根へ飛び移ろうとしていた狼ロードたちの横っ腹へ、巨大な丸太がまとめて激突した。


 一匹、二匹、三匹。


 狼たちの巨体が宙を舞い、次々と地面へ叩き落とされる。


「コルネさん!」

「分かっとる!」


 コルネが立ち上がった。

 弦が鳴る。

 矢が飛ぶ。


 起き上がろうともがく狼ロードたちへ、次々と矢が突き刺さっていった。

 

◇


 いける。

 この砦なら、本当に——。


 そう思った、その時だった。


 ——ウォオオオオオオオン……。


 低く、腹の底まで震わせるような遠吠えが森に響き渡った。


「……っ?」


 異変はすぐに起きた。


 それまで我先にと山小屋へ殺到していた狼ロードたちが、ぴたりと動きを止めたのだ。

 一匹残らず。


「なんや……?」


 コルネも弓を構えたまま、怪訝そうに周囲を見回す。

 群れの最後方。

 そこに、一匹の巨大な狼ロードが佇んでいた。


「……でかい」


 明らかに他とは違う。

 ただでさえ巨大な狼ロードたちより、さらにひと回り大きい。盛り上がった肩。太い四肢。黒灰色の毛に覆われた身体には、いくつもの古傷が刻まれていた。


「……あいつや」


 コルネが低い声で呟く。


「あいつが、この群れのボスや」

「ボス……」


 ボスは動かない。

 赤い瞳が、ゆっくりと動く。

 倒れた仲間。


 壕。

 ワイヤー。

 そして、巨木からぶら下がった丸太。

 まるで、何が起きたのかを確かめているようだった。


 やがてボスが天を仰ぐ。


 ——ウォオオオンッ!


 短い遠吠え。

 その瞬間、狼ロードたちが一斉に散開した。


「えっ?」


 先ほどまでとは動きがまるで違う。

 壕へ闇雲に突っ込んでこない。

 ワイヤーを避け、丸太を食らった登り口にも近づこうとしない。


「アルジャン……」


 コルネの声が強張った。


「あいつら、罠を避け始めたで」


「そんな……」

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