13 ただのパーティーメンバーです!
翌朝早く、俺たちは再び森へ向かった。コルネが興味深そうに見守る中、俺はアイデアを形にすべく作業に取りかかった。大木にしならせた枝と滑車、そして鉄鎖を組み合わせていく。
頭の中のイメージが少しずつ形になっていくのが楽しくてたまらない。試行錯誤を繰り返し、時間を忘れて作業に没頭した末、夕方にはついに独自の『吊り上げ罠』が完成した。
◇
そして翌朝、俺たちは罠の点検へと向かった。
まず向かった先で、俺が仕掛けた通常の罠に鹿が一匹かかっていた。
急いで近づき、暴れられる前にその場でトドメを刺す。肉の鮮度を保ち臭みを防ぐため、すぐさま「血抜き」と「内臓処理(腸抜き)」を済ませた。
「幸先ええな。この調子で本命もかかってくれたらええんやけど」
コルネの言葉に深く頷き、俺たちは期待を胸に本命の『吊り上げ罠』の設置場所へと向かった。
——だが、結果は惨敗だった。
視界に飛び込んできたのは、無残に壊れ、バラバラになって地面に転がる『吊り上げ罠』の姿だった。
「鹿か猪が引っ掛かったんやろうけど……思った通りには動かんかったようやな」
「そうですね。仕組みを複雑にした分、接合部や負荷のかかる部分が脆かったのかもしれません」
俺は落胆を払いのけるように息を吐くと、散らばった滑車や鉄鎖を拾い集めた。ここで諦める気はない。何が原因で破綻したのかを頭の中で検証しながら、その場で再度『吊り上げ罠』を組み立て始める。
大木の反動を殺さないよう支点をずらし、衝撃がかかる部分の固定を強固にする。前回の反省を生かして工夫を凝らすと、出来上がった『吊り上げ罠(改)』は、最初よりも遥かに骨組みがしっかりしたように見えた。
「今度はうまくいったらええなあ」
「はい。今度こそ捕まえてみせます」
仕掛け直した罠に祈りを込め、俺たちは今日の戦利品である鹿を木製の簡易ソリに乗せた。自慢の毛皮を傷つけないよう慎重に引きながら、ゆっくりと森を後にした。
◇
宿に戻ると、裏手にいたマリアさんが俺たちに気づき、パッと表情を輝かせた。
「すごい! 鹿が獲れたのね!」
手を叩いて歓声をあげるマリアさんに、俺は照れくさそうに微笑みかける。
「この鹿、どうしたらいいですか?」
「そうね、このまま裏庭で解体してしまいましょうか」
そのまま、俺とコルネで解体作業を開始した。するとマリアさんも袖をまくり、ナイフを手にして自然と作業を手伝ってくれた。
二人で黙々と進めるかと思っていた解体作業だったが、マリアさんが加わったことで場が一気に和らぐ。手際よく皮と肉を切り分けていく彼女の手元を見て、コルネが心底感心したように声を漏らした。
「マリア、あんた手際ええなあ」
「ふふ、ありがとう。この土地で生まれ育ったから、昔からこういう作業には慣れているのよ」
無駄のない手つきで鹿を捌き終えたマリアさんは、ふと思い立ったように俺とコルネの顔を交互に見つめた。
「ねえ、お二人って……恋人同士なの?」
「違います!」
食い気味に即答した俺に、マリアさんは驚いたように目を丸くする。
「た、ただのパーティーメンバーです!」
顔を熱くする俺の横で、コルネは何も言わず、ただ意地悪くニヤッと口角を上げていた。……なんだよ、その顔は。
気恥ずかしさを誤魔化すように、俺は森での出来事に話題を変えた。
「そういえば……自信作だった吊り上げ罠、見事なまでにバラバラになってたんですよ」
「まあ、それは残念だったわね」
「でも、持ち帰ったパーツで補強して『吊り上げ罠(改)』を作って仕掛け直してきました」
「まあ。次はうまくいくと良いわね」
マリアさんに優しく同情されたり慰められたりするたび、胸の奥がなんだかくすぐったい気持ちになる。自分を気遣ってくれる温かさに、思わず照れくさい笑みがこぼれた。
「えへへへ……」
「…………」
頬が緩む俺の顔を、コルネがじーっと横目で見つめてくる。
「な、なんですか?」
「……なんでもない。なんでもない」
言葉とは裏腹に、コルネは再びニヤニヤと楽しそうに笑ってみせた。
解体が一通り終わったところで、俺は本題を切り出した。
「マリアさん、この鹿肉と毛皮で、どれくらいの宿泊費用になりますか?」
「そうねえ……昨日渡した滑車と鉄鎖の代金も差し引いて、お二人で一週間分というところかしら」
「一週間も……!」
思っていた以上の査定額に、胸のつかえがスッと下りていくのを感じた。このペースで狩りができれば、不安だったこの宿での越冬もなんとか乗り切れそうだ。俺はホッと深く安堵の息をついた。
◇
解体を終えた俺たちは、まず風呂に向かった。泥や血の汚れをさっぱりと洗い流し、冷えた身体を温めた。
温かい風呂。もう最高というほかない。
身なりを整えてコルネと二人で食堂に入ると、すぐにレゼルが料理を運んできてくれた。
「鹿肉のシチューとステーキやで」
レゼルが手際よく皿をテーブルに並べながら説明してくれる。
「今日あんたらが獲ってきた鹿の肉や。マリアが『あんたらに最初に出してあげて』言うてな」
湯気を立てる大鉢のシチューと、香ばしいハーブの香りを纏った厚切りのステーキが目の前に並ぶ。
(ああ、マリアさん……なんて心遣いだろう)
「「いただきます」」
スープを一口口に含んだ瞬間、驚くほど柔らかい肉の旨味と濃厚な出汁の温かさが身体中に染み渡っていった。自分たちの手で獲った獲物が最高の料理になって食卓に並ぶ達成感に、胸が熱くなる。
ふと、マリアさんの笑顔が脳裏に浮かび、思わず口元が緩んでしまった。
……そんな俺の顔を、向かいに座るコルネがじっと無言で見つめている。
「な、何か?」
「お前」
「はい?」
「あの娘に惚れたな」
「ぶふっ!?」
危うくスープを吹き出しそうになった。慌てて口元を拭いながら声を荒らげる。
「い、いきなり何を言い出すんですか!」
「…………」
「そんなわけ……あるわけ、な、ないじゃないですか!」
「…………」
「根も葉もないこと言い出して、俺をからかわないでください!」
「…………」
一人取り乱す俺を、コルネはただ黙って、目を細めて見つめていた。
「…………」
「…………」
「……うまくいくとええな」
「…………」
「…………」
「……はい」
……まったく、この人には敵わない。




