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儚げな猫耳美少女奴隷を買ったら、返り討ちで下僕にされました  作者: しばたろう


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12 罠マニアの誕生

(……は? イケメン……? だれが?)


 俺が思わず自分の後ろを振り返りそうになっていると、コルネが「ハハッ」と盛大に笑い飛ばした。


「ちゃうちゃう! ただのツレや」

「そうなん?」


 娘はニヤリと口角を上げると、細めた目線で俺をじーーっと見つめてきた。

 まるで、狙いを定めた獲物を観察する猛獣のような目だ。


(やだ……なにその目……こわい……!)


 露骨にひよって身体をすくませる俺の姿がツボに入ったのか、コルネが吹き出した。


「くふっ、あんまりガンとばさんといたって。こいつ、超ヘタレやから」

「あはは、なんやそれ! 悪かったな。ウチはレゼルや、よろしくな」

「コルネや」

「……あ、アルジャンです」


 レゼルはひらひらと軽快に手を振ると、「ゆっくりしていきな」と言って次の客の元へと戻っていった。


◇


 去っていく彼女の後ろ姿を見送り、気を取り直して周りを見回すと、広い食堂にはすでに数人の先客がいた。

 よく見れば、人間よりも獣人の姿が目立つ。


「なんだか……獣人の客が多いですね」

「この辺になってくると、人と獣人は半々くらいやな」


 コルネが焼き立てのパンを豪快にかじりながら説明してくれる。


「この国は北に行けば行くほど獣人の割合が増えるんや。もうひとつ北の山を越えた先なんて、住んでるのほとんど獣人やで」

「なるほど……南の俺の地元じゃ、人間ばかりでしたから新鮮です」

「そうやろな。ウチもあんなに人間ばっか見たんは初めてで、ほんまびっくりしたわ」


 ふと、先ほどの、コルネとレゼルとのやりとりを思い出す。

 

「そういえば。コルネさんのこと、俺の奴隷ってことにしなくても良かったんですか?」

「ああ……まあ、ここでは対等のパーティーメンバーいうことにしといた方が都合がええと思ってな」

「なるほど、それもそうですね」


 そんなたわいもない話をしながら、俺たちは久しぶりの屋根のある部屋での夕食を心ゆくまで楽しんだ。

 星空の下、パチパチとはぜる焚き火を囲んでかぶりつく肉も悪くはない。だが、冷たい風を気にすることなく、腰を据えて落ち着いてとる食事もまた格別だった。

 

 その夜は、大浴場で久しぶりの湯にゆっくりつかり、薪ストーブのパチパチとはぜる音を聞きながら、分厚い羊毛の布団に潜り込んで眠った。

 天国である。

 ただ——コルネはもう、俺の布団には潜り込んではこなかった。

 広いベッドで一人眠りにつきながら、俺はふと、つい先日までの日々を思い返していた。野営の凍えるような夜、コルネに抱きつかれながら眠ったあのぬくもりが、どこか無性に懐かしかった。

 

◇


 翌朝、俺たちは早起きをして森へ向かった。この先の宿代と飯代を稼ぐため、狩りをするためだ。


「もう冬やからな、獲物も動きが鈍いし数も少ない。罠を仕掛けるほうが効率がええやろな」


 コルネの言葉に従い、俺たちは日陰にうっすらと雪が残る森の奥深くへと踏み込んでいった。季節はまだ冬の入り口だが、冷気は着実に森を支配しつつある。

 小動物を捕まえる基本的な罠の仕掛け方は、山中でコルネにみっちり教わっていた。その方法ならウサギやリスといった獲物は狙えるが、宿代を払うには到底足りないだろう。

 狙うべきは、まとまった肉と価値ある毛皮が手に入る大型の鹿や猪だ。俺は歩きながらコルネに尋ねた。


「コルネさん。鹿や猪を狙うとなると、やっぱり罠も変わってきますよね?」

「当たり前や。道中で教えたウサギ用の針金罠じゃ、一瞬で引きちぎられて終わりやで」

「やっぱり……馬力が違いますもんね」

「そうや。ウサギは軽いから『頭を通させる』のが一番やけど、大物は『足を狙う』んや。獣道に太いワイヤーのバネ仕掛けを潜ませて、踏み抜いた瞬間、足首をがっちり締め上げる」

「なるほど。頭じゃなくて、足を踏ませるんですね」

「それに、固定する木もドカンと太い幹を選ばんと、木ごと持って逃げられるからな。……まあ、獣道を見分けるコツはウサギと一緒や。応用編みたいなもんやな」


 コルネの解説を聞きながら、俺はふと思い立って口を開いた。


「ちなみに……鹿ロードや猪ロードみたいな魔物も、罠で捕まえることってできますか?」

「そりゃ無理な話やな。あいつらは普通の鹿や猪とはデカさも馬力も、凶暴さも桁違いや。生半可な罠なんか、かかった瞬間に粉砕されるで」

「やっぱりそうですよね。あいつら捕まえられたら、毛皮も肉も何倍も獲れて効率がいいと思ったんですけど」


 思わず零(こぼ)した『捕らぬ狸の皮算用』に、コルネは可笑しそうに目を細めた。


「ふっ……お前も一人前に、でかい口たたくようになったやないか」


 ポンと肩を叩かれ、満足そうに頷くコルネの顔を見て、俺は照れくささを隠そうと苦笑いを返した。


◇


 俺たちは二手に分かれて罠を仕掛けて回ることにした。


 俺はコルネに教わった通り、枯れ葉や落枝の合間によく踏み固められた獣道を見つけ、太いワイヤーを潜ませていく。だが、作業を進めるうちに俺の頭の中にひとつの疑問、そして閃きが浮かんだ。


(普通の罠じゃ、魔物の圧倒的なパワーにワイヤーや留め木が負ける。……じゃあ、その衝撃を別の力に逃がせばどうだ?)


 周囲を見回せば、豪雪にも耐えうるほど太く、しなやかにしなる大木がいくつもある。


(ワイヤー単体で止めるから切られるんだ。滑車を使って大木の「しなり」を巨大な弓のように使い、さらに獲物が暴れれば暴れるほど締め上がって宙へ引き揚げられる仕掛けにすれば……!)


 魔物対応型の複合吊り上げ罠。

 思いついた仕掛けの構想をコルネに話すと、彼女は面白そうに目を輝かせた。


「おもしろいこと思いつくなあ。やってみぃ!」


 背中を押された俺は、その日はまず教わった通りの罠を仕掛け終えると、宿へ戻りマリアさんに相談してみた。彼女なら、交易窓口も兼ねるこの宿の備品に詳しいはずだと思ったのだ。


「滑車と鉄鎖……? うーん、奥の倉庫にならあったかしら。一緒に行ってみましょう」


 彼女に案内された暗い倉庫には、様々な荷や道具が雑多に積み上げられていた。

 薄暗がりの中、埃に塗れながら二人で手分けして探し回る。自分のことのように真剣な眼差しで棚の奥を覗き込み、甲斐甲斐しく手伝ってくれるマリアさんの横顔に、俺は胸が少し熱くなるのを感じていた。


 俺が倉庫の隅で太く丈夫な鉄鎖を発見し、密かに胸を躍らせていると——


「あったわ! これでしょう?」


 声を弾ませて滑車を差し出すマリアさんの笑顔に、不覚にもドキリとしてしまう。埃で少し汚れた頬と、薄暗がりの中で輝く瞳があまりにも眩しかった。


「あの、マリアさん。この滑車と鉄鎖、おいくらになりますか? ……あいにく、手持ちがあまりなくて」


「ふふっ、持っていきなさい。ツケにしておいてあげる」


 人差し指を口元に当て、いたずらっぽく小悪魔的に微笑むマリアさん。

 受付での穏やかで甲斐甲斐しい姿とは少し違う、チャーミングな表情に、俺はすっかり見とれてしまっていた。

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