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君は俺の常世神様  作者: はまちゃん
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おまじない


巨大モニターに映る軍服の男。


東都軍最高司令官。


神代 宗一。


かつて平の直属の上官だった男。


「発見した者には一千万ルクの報奨金を支払う。」


人々がざわめく。


「一千万?」


「本気かよ。」


「見つけたら一生遊べるぞ。」


「でも本当にいるのか?」


宝は平を見る。


平は無表情だった。


ただフードを深く被る。


「行くぞ。」


三人は広場を離れる。


人混みの中へ紛れ込む。


宝が小声で聞いた。


「大丈夫?」


「何がだ。」


「見つかるかも。」


「今さらだ。」


平は歩き続ける。


だが。


宝は気付いた。


平の歩幅が少しだけ速い。


宿を探す途中。


東都の街並みが続く。


高層魔導塔。


空中歩道。


飛空艇。


辺境とは別世界だった。


天音はきょろきょろしている。


「すごい。」


「そうだな。」


「全部光ってる。」


「魔導インフラだ。」


「よく分からない。」


「俺も説明が面倒だ。」


その時だった。


天音が立ち止まる。


「……あれ?」


平が振り返る。


天音は一軒の建物を見ていた。


白い建物。


尖塔。


巨大なステンドグラス。


宗教施設だった。


宝が聞く。


「どうしたの?」


天音は首を押さえる。


少し苦しそうだ。


「分からない。」


「でも。」


「見たことがある気がする。」


平の目が細くなる。


記憶。


天音は記憶喪失だ。


旅の三ヶ月で、


それらしい反応を見せたことはほとんどなかった。


なのに今。


明らかに様子が違う。


突然。


頭痛が走った。


「っ……!」


天音がよろめく。


宝が慌てて支える。


「天音ちゃん!」


視界が揺れる。


知らない景色。


白い部屋。


誰かの声。


眩しい光。


そして。


一人の男。


白衣。


疲れた顔。


優しい目。


その男が言う。


「大丈夫だ。」


「君は必ず生きられる。」


天音が息を呑む。


映像が消える。


頭痛も消えた。


平が聞く。


「何を見た。」


天音は震える声で答える。


「分からない。」


「でも。」


「男の人。」


「白衣を着てた。」


宝が平を見る。


平は黙っている。


しかし。


その表情は僅かに変わっていた。


「平。」


宝が小声で言う。


「何だ。」


「知ってるの?」


平は答えない。


代わりに建物を見上げた。


その宗教施設の名前。


そこには刻まれていた。


天聖院東都本部


平の顔からわずかに血の気が引く。


それを宝は見逃さなかった。


「……平?」


数秒の沈黙。


そして。


平は低く言った。


「宿を探すぞ。」


「え?」


「今すぐだ。」


「でも」


「今すぐ。」


その声には明らかな焦りがあった。


宝は初めて聞いた。


悪石平が動揺する声を。



三人が去った後。


天聖院の最上階。


巨大なステンドグラスの前。


一人の女性が立っていた。


純白の法衣。


銀髪。


そして背中には。


白い翼。


天使族だった。


女性は窓の外を見つめる。


遥か下。


人混みの中を歩く天音を。


そして静かに微笑んだ。


「見つけました。」


その瞳には歓喜と、


どこか狂気にも似た感情が宿っていた。


「第七被験体。」


夜は深かった。


宿屋の窓の外では、東都の灯りが星のように瞬いている。


宝は目を覚ました。


喉が渇いたのだ。


ぼんやりと身体を起こす。


隣のベッドでは天音がぐっすり眠っていた。


小さな寝息。


翼を抱えるように丸まっている。


宝は少し笑う。


そして。


部屋の隅に人影を見つけた。


窓際。


椅子に腰掛ける男。


月明かりに照らされた横顔。


悪石平だった。


「平、まだ起きてたの?」


眠たそうな声で宝が言う。


平は振り返らない。


しばらく沈黙。


やがて。


「……宝。」


「んー?」


「もう少し寝とけ。」


静かな声だった。


宝はベッドから降りる。


「眠れないの?」


「別に。」


「嘘。」


即答だった。


平は小さくため息を吐く。


宝は平の向かいへ座った。


月明かりが差し込む。


夜は静かだった。


「東都だから?」


宝が聞く。


平は答えない。


それだけで十分だった。


宝は窓の外を見る。


無数の灯り。


人々の暮らし。


平がかつて守ろうとした街。


そして。


平を憎む人間もいる街。


「嫌な場所?」


宝が尋ねる。


平は少し考える。


そして。


「嫌いじゃない。」


そう言った。


宝は少し驚く。


平は続ける。


「好きでもないが。」


「どっちなの。」


「分からん。」


平らしい答えだった。


しばらく沈黙が続く。


やがて宝が言う。


「天音ちゃん。」


「……。」


「ここにいたことあるんだね。」


平の視線が僅かに動く。


「そうかもしれない。」


「知ってるの?」


「分からない。」


だが。


その言葉には何かを隠している響きがあった。


宝は気付いている。


しかし追及しない。


窓の外を見ながら宝は言った。


「ねえ。」


「何だ。」


「平。」


「何だ。」


「怖い?」


平は答えなかった。


長い沈黙。


宝は待つ。


やがて。


本当に小さな声で。


平が言った。


「……ああ。」


宝は目を瞬いた。


平が認めた。


恐怖を。


「何が?」


平は月を見上げる。


「過去だ。」


短い言葉だった。


しかし。


その一言にすべてが詰まっていた。


兵器。


戦争。


死者。


東都。


忘却の英雄。


悪石平。


宝はしばらく黙っていた。


そして。


ぽん、と。


平の頭を軽く叩いた。


平が眉をひそめる。


「何をする。」


「おまじない。」


「意味が分からん。」


「眠れるようになる。」


「ならない。」


即答だった。


宝は笑う。


「なるよ。」


「ならん。」


「なる。」


「ならん。」


子供みたいな言い合いだった。


やがて宝は立ち上がる。


「じゃあ寝る。」


「そうしろ。」


数歩歩く。


そして振り返る。


月明かりの中。


宝は微笑んだ。


「平。」


「何だ。」


「大丈夫だよ。」


平は何も言わない。


宝は続ける。


「過去は変わらないけど。」


「……。」


「今は一人じゃないから。」


静かな言葉だった。


説教でも慰めでもない。


ただの事実。


宝はベッドへ戻る。


すぐに眠り始めた。


天音も眠っている。


二人の寝息だけが聞こえる。


平は窓の外を見る。


東都の夜景。


そして。


背後の二人。


しばらくして。


平は小さく呟いた。


誰にも聞こえないほど小さな声で。


「……分かってる。」


その声は、


少しだけ柔らかかった。

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