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忘却の英雄  作者: はまちゃん


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東都


追手から逃れるため。


三人は街道を外れ、山岳地帯を走っていた。


その足となっているのは。


巨大な竜だった。


正確には竜馬。


飛竜と馬を掛け合わせたような魔獣である。


頑丈な鱗。


長い尾。


そして馬以上の脚力。


その背には大きな荷台が取り付けられていた。


平が改造した特製の竜馬車だった。


ガタガタガタッ!


荷台が揺れる。


宝は楽しそうに窓から外を見ている。


天音も興味津々だった。


「でも平お兄さん。」


「何だ。」


「この竜の馬車すごいよね。」


天音は荷台の床を叩く。


「全然壊れない。」


「当然だ。」


平は手綱を握ったまま答える。


「普通の馬車じゃない。」


宝が身を乗り出す。


「平特製?」


「そうだ。」


「やっぱり!」


宝が嬉しそうに言う。


平は少しだけ誇らしげだった。


本人は認めないだろうが。


「衝撃吸収機構。」


「自動重心制御。」


「魔力補助推進。」


「自己修復機能。」


宝が固まる。


天音も固まる。


「……馬車?」


「馬車だ。」


「いや絶対違う。」


宝が即答した。


その時。


後方から角笛の音が響く。


追手だった。


丘の向こうから騎兵隊が現れる。


宝が振り返る。


「来た!」


「見れば分かる。」


平は冷静だった。


天音は窓から顔を出す。


「いっぱい。」


「いっぱいだな。」


宝が叫ぶ。


「平!」


「何だ。」


「どうするの!?」


平は無言でレバーを引いた。


ガコン。


荷台の後ろから何かが展開する。


宝が嫌な予感を覚える。


「平?」


「何だ。」


「それ何?」


「推進器。」


「馬車に?」


「馬車に。」


次の瞬間。


轟音。


ドゴォォォォォォン!!


竜馬車が加速した。


宝と天音が後ろへ吹き飛ぶ。


「きゃああああ!?」


「うわああああ!?」


平だけが平然としている。


「捕まっていろ。」


「先に言って!?」


追手の騎兵たちも唖然としていた。


隊長が目を見開く。


「なんだあれは。」


部下も呆然としている。


「馬車です。」


「馬車が空を飛ぶか!!」


その言葉と同時に。


竜馬車は崖から飛び出した。


宝が悲鳴を上げる。


天音も悲鳴を上げる。


しかし。


荷台の側面から魔力翼が展開した。


巨大な光の翼。


竜馬車が滑空を始める。


「飛んでるぅぅぅぅ!!」


「飛んでるねぇ!!」


天音が感動している。


平は真顔だった。


「飛行機能くらい付けるだろ。」


「付けないよ!!」


宝が全力でツッコんだ。


竜馬車は夕焼けの空を滑る。


その姿を追手たちは呆然と見送るしかなかった。


やがて。


隊長がぽつりと呟く。


「……あれだから捕まらないのか。」


誰も否定できなかった。


荷台の中。


宝は床に転がったまま言う。


「ねえ。」


「何だ。」


「平。」


「何だ。」


「科学者やめて発明家になれば?」


平は少し考えた。


そして。


「似たようなものだ。」


宝は笑う。


天音も笑う。


夕焼けの空の中。


三人を乗せた竜馬車は、


世界の果てへ向かうように飛んでいた。


三日後。


竜馬車は巨大な城壁の前に停まった。


宝は思わず声を上げる。


「うわぁ……」


天音も窓から顔を出した。


「大きい。」


平は地図を畳む。


「東都だ。」


目の前には、


世界最大級の都市国家。


五大列国の一つ。


東都連邦。


数百万人が暮らす巨大都市。


白い城壁は地平線の彼方まで続き、


無数の飛空艇が空を行き交う。


巨大な魔導塔が都市の中心にそびえ立ち、


夜でも街全体が光り輝いている。


世界有数の工業国家。


そして。


平がかつて研究していた国でもあった。


門へ近づく。


検問所は人で溢れていた。


商人。


冒険者。


貴族。


旅行客。


様々な種族が列を作っている。


宝は感心した。


「亞人族も普通にいるんだね。」


獣人。


蜥蜴人。


翼人。


様々な姿が見える。


平は頷いた。


「東都は比較的自由だ。」


「奴隷制度も?」


「禁止されている。」


宝の表情が明るくなる。


「いい国じゃん。」


平は少しだけ苦笑した。


「表向きはな。」


検問の順番が近づく。


すると。


兵士が平を見て首を傾げた。


「身分証を。」


平は外套を深く被る。


偽造身分証を渡す。


兵士はしばらく確認し、


頷いた。


「問題ありません。」


宝が小さく息を吐く。


天音も安心した。


しかし。


平だけは城壁の向こうを見つめていた。


その表情は硬い。


「平?」


宝が聞く。


「どうしたの?」


平は少しだけ黙った。


そして答える。


「ここは。」


「俺が兵器を作った国だ。」


宝が息を呑む。


天音も目を見開く。


東都。


平が研究所を持っていた場所。


平が英雄と呼ばれていた場所。


そして。


平が世界最悪の科学者と呼ばれるきっかけになった場所。


門をくぐる。


その瞬間。


巨大な広場が見えた。


噴水。


時計塔。


飛空艇発着場。


数え切れない人々。


そして。


広場中央の巨大な石像。


宝の足が止まる。


「……え?」


天音も固まる。


石像の台座には文字が刻まれていた。


『戦争終結の功労者』


悪石平


宝が平を見る。


平は無表情だった。


だが。


石像には無数の落書きが刻まれている。


「人殺し」


「戦犯」


「悪魔」


「虐殺者」


そして赤い塗料で大きく書かれた一文。


『英雄を名乗るな』


宝は言葉を失った。


東都は平を称えている。


東都は平を憎んでいる。


その両方が同時に存在していた。


まるでこの国そのものが、


平をどう扱えばいいのか分からなくなっているかのように。



平は石像を見上げる。


数秒だけ。


そして視線を逸らした。


「行くぞ。」


宝が小さく言う。


「平……」


「見慣れてる。」


短い言葉だった。


だが。


宝には分かった。


見慣れているだけで、


慣れてはいないのだと。


その時。


広場の巨大モニターにニュース速報が流れる。


周囲がざわつく。


画面には一人の男が映っていた。


軍服姿。


東都軍最高司令官。


かつて平の上官だった男。


男は演説している。


そして次の瞬間。


平の目が鋭くなる。


画面の男が言った。


「悪石平が東都国内に潜伏している可能性がある。」


宝と天音が凍り付く。


「発見した者には多額の報奨金を支払う。」


広場が騒然となる。


平は静かに外套のフードを深く被った。


そして呟く。


「……面倒なことになったな。」


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