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君は俺の常世神様  作者: はまちゃん
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12/15

回収延期

石巻遺跡。


雪が舞う中、空気が一瞬で変わった。


平は成宮に馬乗りにされ、地面に押さえつけられていた。


成宮の拳が容赦なく振り下ろされる。


「おい、先生。」


ドン。


「使えよ。」


ドン。


「それしかないんだろ。」


ドン。


衝撃が頬に走る。


視界が揺れる。


それでも平は銃に手を伸ばさない。


成宮は息を吐いた。


「はぁ。」


「先生。」


「つまんないな。」


拳が止まる。


成宮は立ち上がる。


「じゃあね、先生。」


そう言って背を向けた。


美琴も天音を抱えたまま歩き出す。


その瞬間だった。


「ゴホッ……!」


成宮が立ち止まる。


「……っ?」


美琴も足を止める。


「何……これ……」


二人の呼吸が乱れる。


膝が落ちる。


視界が揺れる。


「毒……?」


成宮が片膝をつく。


美琴も地面に手をついた。


宝が驚く。


「えっ!?」


遺跡全体には何もない。


爆発もない。


魔法の痕跡も薄い。


ただ。


空気そのものが“歪んでいる”。


その中心で。


平がゆっくりと立ち上がった。


血を拭う。


そして淡々と言う。


「すまないが。」


成宮と美琴が平を見る。


平の目は冷たい。


「“あれ”を薄めておいた。」


成宮の表情がわずかに変わる。


「……まさか。」


平は続ける。


「お前たちだけに効くように。」


「周辺に分布させてある。」


美琴が息を切らしながら呟く。


「選択式……毒素……?」


平は否定しない。


「空気に溶かしている。」


「認識した対象の魔力構造にだけ干渉する。」


宝が呆然とする。


「そんなの……いつの間に……」


平は答えない。


ただ一歩前に出る。


成宮が笑おうとするが、咳で途切れる。


「く……っ、はは……」


「先生らしいな……」


「やることが……陰湿だ……」


美琴が天音を支え直そうとするが、力が入らない。


平は銃を構えたまま言う。


「返せ。」


短い言葉。


だが空気が凍る。


成宮は地面に片膝をつきながら笑った。


「いいね……」


「やっと本気か……?」


平は答えない。


ただ銃口を上げる。


「次は当てる。」


成宮の目が細くなる。


その瞬間。


雪が強くなった。


戦場は、静かに“反転”していた。


空気の歪みがわずかに薄れていく。


成宮と美琴はまだ膝をついたまま呼吸を整えていたが、致命的な動きは止まっていた。


成宮は肩で息をしながら笑う。


「しょうがない。」


「先生に久しぶりに会えたからな。」


平は銃を下ろさない。


視線も外さない。


成宮は手を軽く振った。


「情けで被験体の回収は延期だ。」


美琴が小さく息を呑む。


「成宮……」


「いいだろ。」


「今日じゃなくてもいい。」


その言葉には余裕があった。


撤退の判断ではない。


遊びの中断に近い。


そして二人の影が雪の向こうへゆっくりと後退していく。


完全に消える直前。


成宮が最後に笑った。


「またな、先生。」


その声が雪に溶けた。


静寂。


遺跡には崩れた石と雪だけが残る。


宝はその場に立ち尽くしていた。


「終わった?」


誰もすぐには答えない。


平はしばらくその方向を見ていた。


銃をゆっくり下ろす。


「撤退だ。」


短い言葉。


その瞬間、緊張が一気にほどける。


宝はその場にへたり込んだ。


「はぁぁぁ……」


「死ぬかと思った……」


そしてそのまま平に飛びついた。


「平!!」


平の身体が少し揺れる。


「おい。」


「怖かったよ!」


宝は本気で震えていた。


さっきまでの戦闘の余韻。


成宮の圧。


美琴の存在。


全部が今になって押し寄せている。


「急に馬乗りとかされてるし!」


「殴られてるし!」


「なんか空気おかしくなるし!」


平は少し黙ってから。


「離れろ。」


と言ったが、いつもより弱い声だった。


宝は離れない。


「無理!」


「怖かったんだから!」


そこへ天音が駆け寄ってくる。


「平お兄さん!」


そしてそのまま勢いよく抱きついた。


「うわっ……」


平の身体が今度は完全に揺れる。


天音の声は震えていた。


「怖かったよ……」


「本当に……」


平は一瞬だけ言葉を失う。


そして。


「無事でよかった。」


それだけ言った。


宝は顔を上げる。


「平。」


「何だ。」


「今の平、ちょっと怖かった。」


平は少し間を置いて。


「そうか。」


とだけ答えた。


否定はしなかった。


天音はまだ震えながらも、少し笑う。


「でも助けに来てくれて嬉しかった。」


その言葉に。


平は何も返さない。


ただ、銃を静かに腰へ戻す。


雪がまた強く降り始めていた。


だが遺跡の中には、さっきまでとは違う静けさが戻っている。


それは終わりではなく。


次に続くための、一瞬の休息だった。

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