表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤高の才女は毒に溺れる  作者: kuroyomi4


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/34

いかないで

 彼女に拒絶された日、濡れたままでいた私は風邪を引いた。

 母は濡れた制服と既にパジャマに着替えて元気がない様子の私を見て「なにかあったの?」と心配してくれた。

 しかし、私が黙っていると察したのか「何か手伝えることがあったら言いなさいね」とだけ言って普通に接してくれた。


 風邪を引いて私が家事ができなことを謝っても、「ゆっくり休みな」と言って家事を全部やってくれた。

 本当は治ったけどもう一日休みたいと言った時も何も言わずに休ませてくれた。


 金曜日も休むのは流石にやめた。これ以上休むと彼女に心配させてしまうと思ったから。

 あんなことを言われてもなお、私のことを心配してくれるか分からないけど。


 いつもより早い時間に学校に行く。

 教室に入るとクラスメイトが集まってきて火曜日の事を心配された。

「大丈夫だよ」と答えて、席に座る。

 彼女はまだ来ていない。


 机の中に入っていたプリント類を確認していると彼女が教室に入ってきた。

 気まずさもあったが気になって彼女の方を見る。

 私の知っている彼女と全く違っていた。

 青白い顔、死んだような目、体はふらついているし瘦せたようにも見える。


 何があったのか分からないが彼女が弱っていることだけは分かった。

 心配で声をかけようと考えたが、そもそも声をかけてはいけないと自分に言い聞かせ視線を前に向ける。

 こんなにも弱っている彼女を前に何もできないのが悔しい。しかし、今ここで何かするとさらに彼女を困らせかねない。

 私は唇を嚙み締める。


 昼休みになるとあいつが教室に来た。

 彼は彼女をデートに誘った。

 彼女は素直に了承していたが私は見逃さなかった。

 彼が触れた時、彼女の体がビクッと反応していたのだ。まるで、怯えているような反応。

 この時、彼女がここまで弱っているのは彼のせいだと分かった。

 睨みつけると彼は私を見下したような笑みを浮かべて教室を出て行った。


 そして今日、彼女がデートをする日。

 私は朝から落ち着かなかった。

 何もしていないときは彼女のことを考えてしまう。

 何かをしていないと気が休まらない。

 胸の奥がざわざわする。


 晩御飯を食べ終わって風呂に入ろうすると、スマホに電話がかかってくる。

 登録していない番号だ。

 普段の私なら出ないが、もしかしたら彼女からなのではと思い、電話に出る。


「もしもし、誰ですか?」


「もしもし、東野です。茉莉様ですか」


「はい、そうですけど。どうしたんですか?」


 電話をかけてきたのは東野さんだった。

 なんで私の番号を知っているのだろう。

 私に何の用だろう。


「茉莉様、敦那様から何か聞いてませんか?そちらにいたりしませんか?」


 どういうことだろう、状況が見えてこない。

 東野さんが焦っているのが声で分かる。

 彼女に何かあったのだろうか。


「しののんからは何も聞いてないし、来てもないですよ」


「そうですか......茉莉様、落ち着いて聞いてください」


「はい......」


 胸の奥のざわざわが大きくなっていく。


「先ほど敦那様から電話がありました。私と茉莉様への感謝を述べた後、今までありがとうと言って電話が切れてしまい、そこから電話に繋がりません」


「ちょっと待ってください。そんなの今からしののんは......」


 最悪の考えが頭に浮かぶ。それ以外考えようがない。


「ええ、茉莉様もお考えの通り敦那様は自らの命を絶とうとしております」


 駄目、嫌だ、そんな事させちゃいけない。


「東野さん、しののんは今どこにいるの!?」


「分かるのは電車の音が電話から聞こえたくらいです。それ以外は何もわかりません」


「電車の音......」


 電車何てどこでも走ってる。

 これだけじゃ彼女の居場所を特定するには至らない。


「東野さん、しののんのスマホのアカウント情報って持ってないですか?」


「すみません、持ってないです」


「そうですか」


 もし持っていたのなら私のスマホで現在位置を特定できたのに。

 他に何か手は無いのか。

 彼女と私は3日間だけ友達だった。

 そんな私が彼女の行く場所なんて分かるわけない。


 でも、もし彼女が私との関係を大切にしてくれていたのなら。

 私との約束を覚えていたのなら。

 もしかしたら......


「東野さん、しののんは私の事で何て言ってたんですか」


「敦那様は、「一緒に水族館に行く約束守れなくてごめんなさい。3日間と言う短い間だったけど楽しかったわ」と言ってました」


「......」


 一緒に水族館に行けなくてごめんなさい。

 楽しかった、か。

 良かった、彼女も私と同じ気持ちだったんだ。

 なら......


「東野さん、一つ思い浮かぶ場所があるんです」


「本当ですか!それはどこですか!」


「水族館です。私達が今度遊びに行こうとしていた場所です。根拠とかないですが私はそこだと思います」


 根拠はないが今の私に導き出せる場所はここしかない。


「茉莉様の予感を信じましょう。ではそこへ向かいます」


「いや、私が行きます。東野さんはしののんが行きそうな場所に行ってみてください」


 もしここじゃなかった場合、手遅れになる可能性がある。

 そうなったら私のせいで彼女は死んでしまう。

 それだけは駄目だ。

 絶対に彼女は死なせない。


「かしこまりました。では、よろしくお願いします」


「はい。もし見つけたら電話します」


 電話を切る。

 玄関に行こうとすると部屋の前に母が立っている。


「どこいくの?」


「しののんが行方不明らしいの。もしかしたら死のうとしてるんじゃないかって東野さんが」


「だから見つけに行くの?一人で?」


「うん、絶対に見つける」


 私がそう言うと母はため息をついて私の頭に手を置く。


「私が何て言ったか忘れたの?何か手伝えることがあったら言いなさいって言ったわよね」


 よく見れば母は外出用の服に着替えていた。

 手伝ってくれる。

 これ以上に心強いことは無い。

 やっぱりこの人たちの子供に生まれて良かった。


「ありがとうママ。じゃあ、水族館まで連れてって!」


「まかせな。急ぐよ」


 マンションから出て、母の車に乗る。

 カーナビに水族館までのルートを表示する。


 ここから約10分、間に合うだろうか。

 お願いしののん、諦めないで。

 私は胸の前で手を握って祈る。

 お願い神様。



 水族館まであと少し。

 外を見ると海が一面に広がっている。

 月明かりに照らされて綺麗だ。

 進んでも変わらない風景。


 そう思っていると視界に変化があった。

 浜辺に一人いた。

 海に向かって歩いていた。


「止まって!」


 私が叫ぶと母がすぐに道路の端に止める。


「ママは救急車を呼んで!」


 車から降りて浜辺に向かう。

 やっぱりいた。

 黒髪ロングの女の子。

 あれは彼女だ。


「しののん!」


 名前を叫ぶが彼女には届かない。

 もう彼女は腰ほどの深さまで進んでいた。

 待って。


 もう一度名前を呼ぼうとすると彼女の姿が海に消える。


「だめ!」


 早く行かなきゃ、早く。

 靴を脱いで全速力で走る。

 水が冷たい。


 足は着く深さだが所々深い場所がある。

 彼女はそこに足を取られたのだろう。

 彼女が海に消えてからもう1分は経った。

 早く見つけないと手遅れになる。


 彼女が消えた付近に来たが暗くて何も見えない。

 スマホのライトをつけて彼女を探す。


 どこにいるの?

 早く見つかってよ。

 お願いだから。


 足に何か柔らかいものが当たる。

 これは、人の足だ。

 ここにいる。


 私は身体とスマホを水につけて彼女を探す。

 あった、彼女の腕だ。

 腕を伸ばして彼女をつかむ。


「ぷはっ」


 彼女とともに海から顔を出す。

 意識は無いし息もしていない。

 まずい、早く浜辺まで行かないと。


 なんとかして彼女とともに浜辺に上がる。

 母が私たちのもとに駆け寄ってくる。


「ママ!しののん息してないから心肺蘇生するね!」


 息をしていないのは確認済み。

 胸骨圧迫と人工呼吸を開始する。


「救急車はあと5分くらいで来るから!」


 あと5分。

 いつもなら短いと思える時間も今は無限のように感じる。


「あと私のスマホから電話アプリ開いて履歴の一番上にある電話番号に電話して!番号は0410だから」


 東野さんに今の状況を伝えないと。

 母が電話をかけるとすぐに電話に出た。


「東野さん!しののん見つけたけど息してないの!今心肺蘇生してて救急車呼んでるから早くこっち来て!」


「かしこまりました!ありがとうございます!」


「ママ繋いだままにしといて!」


「わ、わかった」


 母は少し気が動転しているが私の指示をちゃんと聞いてくれる。

 浜辺に上がってからどれくらいたったか分からない。

 早く息をして、早く来て......


「ゴホッゲホッ」


 彼女が水を吐き出す。

 息をしているかを確認するために口に手をかざす。


 呼吸のスピードは遅いが息をしている。


「良かった......」


 全身の力が一気に抜けて砂に倒れる。

 今日ほど、保険の授業に感謝したことは無い。


 母が彼女を横にさせ、息が続いているかを確認する。


「よくやったわ茉莉、ちゃんと息してるわ」


「東野さん、しののん息吹き返したよ」


「ありがとうございます......」


 東野さんも言葉にならない様子だった。


 そこから2分後に救急車と東野さんが到着した。


「しののんは大丈夫なんですか」


 救急隊の人に心配で聞いてしまう。


「はい、命に別状はないですよ。あなたが早く見つけてくれて心肺蘇生をしてくれたおかげです。あとは私たちに任せてください」


 彼らは私を安心させるために笑顔でそう言った。

 東野さんは彼女の保護者という事で救急車に一緒に乗ることになった。


「茉莉様、お母さま、この度は敦那様の命を救ってくださり本当にありがとうございます。この御恩は一生をかけてでも返させていただきます」


 救急車に乗る前に東野さんから頭を下げられた。

 彼は泣いていた。

 それほどに彼女のことが心配だったのだ。


「東野さん、私はしののんをこれほどまでに追い詰めた人たちを許しません。私はしののんを解放してあげたいです」


 私は今日一日考えていたことを話す。

 彼女を今いる環境から救い出したい。

 私だけでは無理かもしれないけど、東野さんの協力があればどうにかなるかもしれない。


「どうか、私と一緒に彼女をこの地獄から解放してくれませんか」


 私も頭を下げる。

 隣にいる母は何も言わない。

 でも、否定しない事だけは分かる。


「茉莉様、私もいつかできたらいいと思っていましたが今まで行動に移すことができませんでした。でも、あなたが言ってくれた事、そして今日の出来事で心が決まりました」


 私は彼の顔を見る。

 その顔は怒りと悲しみ、そして決意に満ちていた。


「私も全力を尽くしましょう。よろしくおねがいします」


 右手を差し出される。

 私も左手を出して握手を交わす。


「がんばりましょう」


 そこから東野さんとしののんは病院に運ばれていった。

 検査の結果は分かり次第、東野さんが教えてくれるとのことだった。


 母と私の2人が残る。


「茉莉、よく頑張った」


 母が私を抱きしめてくれる。

 暖かい。

 海の水で冷えた私の体が温まる。

 それと同時に私の中の何かが切れてしまう。


 涙が零れ落ちる。


「怖かっだよ、しののん冷だがった。じんじゃったと思っだ~」


 見つけれてよかった。

 息を吹き返してくれてよかった。

 死ななくてよかった。


「よしよし、あんたは本当に頑張ったよ。人の命を救ったんだ」


 優しい言葉で私を肯定してくれる。

 私はかなり思い詰めていたようだ。

 涙が止まらないし力が入らない。


「マ゛マ゛ありがどう~」


「ここで泣いててもまた風邪ひいちゃうからおうちに帰ろう」


「うん」


 私は母の運転で家に帰った。

 帰ってすぐに暖かいシャワーとお風呂に入って体を温める。

 風呂に入った後は睡魔が襲ってきたのでベッドに横になった。


 彼女を絶対に助け出して温もりを思い出してもらう。

 それが私の目標。

 私はこれから始まる戦いに向けて決意を新たにする。

 これからが本番だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ