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孤高の才女は毒に溺れる  作者: kuroyomi4


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サヨナラ

 ホテルから出る。

 時刻は8時半、6月とはいえ辺りも暗い。


 これから何しようか考える。

 どこが私の最期として相応しいかな。


 そうだ、海に行こう。

 彼女が行きたいと言っていた水族館がある海に。


 駅まで歩き、電車に乗る。

 人は多くはいないがそれなりにいる。

 スーツを着た人、友達と仲良くしゃべっている人、家族で座っている人、カップルで座っている人などいろんな種類の人がいる。

 私はどんな人に見えているだろうか。

 目の周りが赤くはれていて、髪の毛は乱れていて一人の女の子。

 家出少女にでも見えるのかな。


 電車に揺られていると目的地付近に着いたので電車を降りる。

 本当はそのまま水族館に着くこともできたが少し歩きたかったので、一つ前で降りた。


 夜風が気持ちいい。

 海が近いから潮の香りもする。


 歩きながらスマホを取り出し、電話をかける。相手は東野だ。

 2コール鳴らした後に繋がる。


「もしもし、東野?」


「敦那様、どうしたのですか?夜中に急に電話をしてくるなんて」


 東野は驚いたような口調で電話に出た。


「東野の声を聴きたいなと思っただけよ......ねえ、東野」


 私は東野に対して思っていたことを話し始める。



「あなたの作るご飯はいつも美味しくて優しい味でとても食べやすかったわ。私の体を気遣った料理を作ってくれてありがとうね」


 優しい料理、また食べたかった。


「どうしたのですか?急にそんなことを言い始めて」


「学校の送迎も毎日してくれてありがとう。私が遅刻しても早退しても嫌な顔一つもせずに送迎してくれて助かったわ」


 丁寧な運転が心地よかった。


「まさか」


「私が小さい頃からずっと面倒見てくれてありがとう。東野はもう私のお父さんみたいに思っていたわ」


 話を聞いてくれて嬉しかった。


「敦那様だめですぞ」


「彼女と遊びに行くのにどうするべきか悩んでた私の背中を押してくれてありがとう。おかげで楽しい一日を過ごせた。あの日は人生で一番最高の日だったわ」


 彼女とまた遊びたかった。


「今までありがとう。最後に彼女に「一緒に水族館に行く約束守れなくてごめんなさい。3日間と言う短い間だったけど楽しかったわ」と伝えて。じゃあね」


「敦那さ」


 通話を終了する。

 スマホの電源を落とす。

 東野がかけ直してこれないように。


 これまでの人生、楽しくなかった。

 全部母が決めたことに従って道を外れないように努力した。

 その方が楽だった。逆らう力も無ければ理由もない。傷つかないために自分の心さえも捨ててきたつもりだった。

 皆が私を道具としてみるのなら私も自分を道具だと思おうとした。

 他の人が友達や恋人と遊んだり喧嘩してる中、私は一人でいることを選んだ。


 それも無駄だった。

 私は心を捨てたふりをしていただけ、自分の心を見ないふりをして耐えていただけ。

 徐々に摩耗していき、そして今日、限界が来た。

 私が何かをして変わる事ではない。いつか来てしまう事だ。

 彼女と関わって早まっただけ。


 彼女は私が建てていた壁を乗り越えてきた。私を普通の女の子として扱ってくれた。私を友達だと言ってくれた。

 彼女のおかげで私は3日間だけ東雲 敦那ではなく、しののんという普通の女子高生としていられた。

 この私にも心があるという事を再認識させてくれた。


 だからもういい。

 これ以上彼女との思い出が悲しい記憶で埋もれてしまう前に、まだ新しいうちに終わらせてしまおう。


 浜辺に着く。

 当たり前だが誰もいない。波の音だけが聞こえる静かな場所。


 靴を脱いで素足になり、海に足を付ける。

 冷たい。


 私は東雲 菊という母と原田一真という男に身も心も侵されてしまった。

 母は精神を、原田は身体を毒のように徐々に侵食していった。

 今、私は彼らの毒でボロボロだ。


 この海で死ねば私の毒も薄まるだろう。

 だって、海は広くて深い。なんでも飲み込んでしまえそうなほど。

 だから私一人海に入って混ざったところで何も変わらない。


 腰まで海につかる。

 もう、水が冷たいなんて感じない。

 私が海の一部になったように感じる。


 彼女のことを考える。

 あの笑顔をもう一度見たかった。

 小説の感想、聞きたかった。

 水族館行きたかった。それ以外にもいっぱい色んなところ遊びに行きたかった。

 彼女の家にも行ってみたかった。

 もう一度握手したかった。

 彼女の暖かい体で抱きしめられたかった。


「     」


 後ろから何か声が聞こえた気がするがどうでもいい。


 彼女には申し訳ないことをしている。

 私が死ぬことでトラウマを植え付けてしまうかもしれない。

 でも、それで彼女の中に私が残り続けてくれるのなら。

 それでもいいと思ってしまう自分はとんだ最低野郎だ。


「わっ」


 急に深くなり、足を滑らせ頭まで海につかる。

 上を見ると月光がきれいに見える。

 ああ、私ようやく死ねる。こんな人生とサヨナラできる。


 息が続かず、意識が遠のいていく。


 来世があるなら普通の女の子に生まれたいな......

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