経緯
車の後部座席に座る。
彼も私の横に座る。
「離れて座ってと朝にも言ったはずよ」
彼がつめて座ってこようとするので手で押し返す。
「つれないなぁ」
がっかりしたような仕草をしながら離れる。
さっきの光景が忘れられない。
私を引き留めた力強い手。
友達じゃないと言って拒絶した時の彼女の顔。
雨に降られながら立ち尽くす姿。
ああするしかなかった。
彼女をこれ以上私の都合に巻き込ませてはいけない。
私達は生きる世界が違うのだから。
「彼女のことを考えているのかい?」
彼は目ざとい、私が何か考え事をしていると分かったのだろう。
「違うわよ、帰ったら荷解きの続きをしないといけないなと思ってただけよ」
適当にうそをついてごまかす。
「ふ~ん、そう」
そこからは会話は無く、ほどなくして家に着く。
着いたのは私の家ではない。
原田 一真の家族が暮らしている家。そして、昨日から私が暮らしている家でもある。
「「「おかえりなさい一真様、敦那様」」」
家に入ると3人の使用人が出迎えてくれる。
「ただいま」
彼の家には多くの人がいる。
「......」
私は何も言わずに自分の部屋へと向かう。
部屋に入り、まだ開けていない段ボールを開ける。
段ボールに入っている本の山から彼女にあげた小説を見つける。
「やっぱり私には無理だったんだ......」
私は3日前、土曜日の事を思い返す。
あの日、彼女と別れて東野の車で帰った私は母屋に呼び出された。
嫌な予感を覚えながらも行かない選択肢はなかったため行くと、そこには母と原田がいた。
母は怒った表情を、原田は悪い笑みを浮かべていた。
部屋に入るや否や母に頬を叩かれた。
叩かれた理由はなんとなく分かっている。彼女の事だろう。
叩かれた頬が痛く、おさえていると母が口を開いた。
「なんで自分が叩かれたか、そして今から言われることは分かるわよね。橋本 茉莉と言う女子高生とお友達になったらしいじゃない」
やはりか、彼女らは私の交友関係も管理しようとしているのだ。
「はい」
「あなた、自分が誰か忘れたわけじゃないでしょうね?」
「......」
「呆れた、本当に忘れてしまったみたいね。良い?あなたは私の成果物なのよ、あなたの一挙手一投足が私の評価につながる。友人関係ももちろんそう」
成果物か、確かに母が生み出して育てている物という意味では合っている。娘じゃないんだ。
「それに、木曜日に家に上げたそうね。なんでも、雨に濡れていたところを助けたらしいじゃない。それで学校に遅刻?ふざけているの?」
「すみません、放っておけなかったので」
「それに、今日もその女と遊びに行ってきたらしいじゃない。映画を見に行って、服を買って?ゲームセンターで遊んで。良いご身分ね」
「申し訳ありません、金輪際このようなことは無いようにします」
これが母親に対しての言葉とは到底思えないが、これが私たちの上下関係だ。
母が言うことは絶対、逆らうべきではない。
「一真さんが私に話してくれていなかったらどうなっていたことやら、考えるだけでも恐ろしいわ」
先ほどからどこから情報が流れているのか気になっていたがここで分かった。
彼がここにいる理由も。
「東野、敦那の事はあなたに任せておいたはずよ」
母は東野にも問い詰める。
「申し訳ありません、奥様。人助けであることと敦那様の意思を優先してしまいました」
「敦那の意思?そんなの考慮しなくていいわ」
本人が目の前にいるのによくも堂々とそんなことが言える。
「やっぱり、東野は駄目ね。東野、今日付けであなたを解雇します」
「ちょっと待ってください、お母さま」
東野がクビ?
そんなことあってはならない。だって東野はこの家で唯一の私の理解者なのだから。
「あなたは黙っていなさい。そもそも、今こうなっているのはあなたの身勝手な行動が原因なのよ。それを考えて発言する事ね」
「はい......」
私のせい、私が彼女と友達になったから。彼女を助けたから、遊んだから。
「そして敦那、あなたはこれから離れではなく、一真さんの家で暮らしてもらうことにします」
「え、なんで」
私が彼の家で暮らす?彼と一緒に?
嫌だ、会うことでさえも嫌なのに。
「あなたにこれ以上好き勝手させないためです。それに、本来は18になったら一真さんと一緒に暮らしてもらう予定でしたし」
やっぱり私に自由は無いんだ。
将来を共にする人も決められてしまっている。
母は原田を婿入りさせて、彼の会社を吸収しようと考えているのだろう。
「ということで、これからよろしく。敦那」
私は彼を睨みつける。
彼は「こわ~い」などとほざく。
「月曜日までに荷物をまとめ、その女とは友達をやめて金輪際関わらない事。話は以上です」
そう言って母は出ていき、原田も彼女に続いて出て行った。
私と東野は離れの家に戻る。
「東野、ごめんなさい」
彼に向かって頭を下げる。
私のせいで東野は解雇されてしまった。
私のわがままで。
「敦那様、頭を上げてください」
頭を上げると東野は優しい笑みを浮かべていた。
「私は、何も後悔していません。彼女を助けるのを手伝った事、どうしたいのか聞いた事。だから、謝らないでください」
「東野......」
「私は敦那様のお世話を今までできて幸せでした。あなたがこれから経験することを考えると心が苦しくなりますが私は何もすることができません。それがとてつもなく悔しい」
東野は自分の事より私の心配をしてくれる。
「ありがとう、気持ちだけで十分よ。部屋に戻るわね、荷物もまとめないといけないし」
「晩御飯ができたらお呼びしますね」
その日の晩御飯は少し塩辛かった。
次の日起きると東野はもうおらず、私も午後には荷物をまとめた。
月曜日に荷物を原田の家に運び込んで、荷解きを始めた。
それが土曜日から今日までに起こったことだ。
私はどうするのが正解だった?
遊ぶべきじゃなかった?
助けるべきじゃなった?
友達になるべきじゃなかった?
出会うべきじゃなかった?
母や原田はどれも「そうだ」と言うだろう。
でも私はすべて正しい行動だったと思う。
だって私の意思で決めたことだから。
だれか正解を教えて。
私をここから連れ出して。
私の心が壊れてしまう前に。




