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「だ、大丈夫ですか!?」
「うむぅ。魔道使いとして年をとりすぎると、体がこの世の法則にしばられなくなってくるでな。とはいえー」
ここで、老魔導師は大きくひと呼吸ついた。
「もってあと、一時間というとこじゃな」
「……………」
長く長く生き、すでに生死への悟りをひらいてしまった者の、あっけらかんとした物言いに、ブランは何も言えなくなってしまった。
「さて、アリッサに呪術師よ。最後にひとつ、わしの術法に協力してもらうぞ」
ロジ・マジが、杖につかまりながら、アリッサとブン・ラッハに目をやる。
「やはり、切り札を持ってたんだね」
「うむ。本当なら、ヴィシュメイガをもう少し弱らせてから使おうと思っとったんだがのぅ」
そう言うとロジ・マジは、何事か呟き、杖で地面をトンとついた。
途端に、アリッサとブランの周りに半透明のオレンジ色に光る膜が張られた。
「わしが使える中で最も頑丈な対熱結界じゃ。例えわしが滅されようと、しばらくは消えんから安心せい」
「安心するためには、あんたの秘策を聞かせてもらわないとねぇ」
アリッサがチラリと上空を見ながら、ロジ・マジにたずねる。
ヴィシュメイガは、勝者の余裕か、微笑を浮かべながら、こちらを見下ろしている。
「わしは、これから強力な熱エネルギーを呼び出す。ただ、そのためには、少しでも多くの魔力が必要だ。わしが合図をしたら、こちらにありったけの魔力を送って欲しい」
「魔術系統のチャンネルは??」
「わしは、系統分けが行われる以前の古き魔術師じゃ。何がこようと問題ない」
「ふん。便利なこった」
『こちらも、いつでもいいぞ』
二人の魔術師の了解をとると、ロジ・マジは、よたよたとヴィシュメイガが浮かぶ真下まで歩き始めた。




