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「さらにあんたが賢いのは、近くにある迷宮の奥まった一室……つまりは、その手前の部屋に、探知してくれとばかりに、強力な魔道の封印を施したことだ」
「うむぅ」
「あんたの吊した美味しいエサを求めて、たくさんの闇魔道士がこの迷宮に来たんだろうねぇ。この奥にヴィシュメイガがいるに違いない、どうにか利用してやろう、と」
「じゃが、今も封印が破られてない所をみると、みな痛手を受けて退散したか、迷宮内で朽ち果てたんじゃろう。なんせユガルタ内には古代から生き残る強力な魔物がウロウロしとるからのぉ。ふぉっふぉっふぉっ」
ロジ・マジとアリッサの問答を聞いて、ブランは改めて、この老人がただの温泉好きな翁ではなく、大魔導師とよばれるに値する人物なのだと感じたのだった。
「ただね、ひとつわからない事があるのさ」
アリッサが目を細めながらさらに問いかける。
「なんでわざわざ石にまでなって、ここにいたんだい?わざわざ面倒な伝承まで残してさ」
「うむ……」
ロジ・マジは、少し考えてから顔を上げた。
「これだけ大規模な自然結界を作るのは、さすがなわしもはじめてでな。それがうまく機能するか、何百年という長い目で見守る必要があったんじゃ。……だがな、ヴィシュメイガを封じた時点でわしの寿命は、持って後三十年というとこだった」
(一般人からすると十分に長いんですが…)
状況が状況なだけに、ブランは突っ込みを心の中だけにとどめておいた。
「それで、非常事態が起きた時に蘇る事ができるようにしといたってわけかい、気の長い話だね」
「まあ、建前はな」
「あぁ??」
「実のところ、わしゃ当時に村の長老だったばあさんに惚れとってなぁ。つぃ、いいとこを見せたくなってしまったんじゃ」
老魔導師は、子どものようにはにかんで見せた。




