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「まあ、いわゆる恩返しというやつよ」
カポ〜ン……
湯気がたちのぼる中、つるりと禿げあがった老人の乾いた声が響きわたる。
「そもそもは三百年前、わしがもう少しで五百才になろうかという時のことじゃ」
当時、ある魔物との戦いで傷つき倒れた彼を介抱してくれたのが、ニーゲルン村の村人達であった。
村の貧しいが穏やかな環境が気に入ったロジ・マジは、助けられた礼にと村の中心部に温泉を掘り起こし、自身も村はずれの小屋に暮らすことにしたのだ。
「無論、感謝の気持ちには変わりなかったが、この村に居座ったのにはもうひとつわけがあった」
すでに「温泉魔導師」として、魔道の世界では高名であった彼の専門は「地脈」についてであった。
「この地には、強力な大地のエネルギーが幾筋も流れており、地脈と魔道の融合を研究していたわしにとっては、夢のような場所だったんじゃよ」
ところが数年後、この寒村に突然の襲撃者が現れた。雪妖ヴィシュメイガである。
当然、ロジ・マジは村を守るためにヴィシュメイガと5日間にも及ぶ激しい戦いをし、ようやく勝利をおさめたのだという。
「しかし、やつはなかなかにしぶとくてのぅ…」
どうにかヴィシュメイガを自分の結界内に封じ込めたロジ・マジだったが、怒り狂った魔物は内側から激しく抵抗し、数日もあれば結界を突き破り、再び外界に現れてきそうな有り様だった。
「そこでわしは、それまで研究してきた術法を試す事にしたんじゃ」
それは「自然結界」と呼ばれるもので、地脈の流れが重なる場所に魔物を呼び寄せ、その上に「要石」というロジ・マジ自ら精製した石を置くことにより、地脈の渦を作り、魔物を半永久的に封じるというものだった。
「この結界のすぐれた所はな、大地のエネルギーで魔物を囲うため、雪妖の力を欲する邪悪な魔導師どもがいくら探知しようとも、その魔力を見つけることができんのじゃ」
「なるほどな」
アリッサが小さくつぶやく。
「さらには、地脈の渦によって村の気候を温暖にすることができたしのぅ」
「あ、それであんなに暖かかったんだ」
ブランの隣ではアリッサが「それみたことか」というように鼻を鳴らす。
「しかし、後の世になって石が動かされてはいかんじゃろ、それでー」
「石の上にあんたの木像を置き、あんたをまつる祠を建てさせた」
老魔導師の言葉をアリッサが継いだ。




