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ギギギギギ……
鋼鉄製の扉が、ガンダルガの手によって押し開かれる。
ブランの予想に反し、特に鍵などはかかっていなかったようだ。
「いよいよ、ユガルタの迷宮か…」
ブランは、左手にはめた丸い木の盾をもう一方の手でギュッとつかんだ。
それは、ユガルタへと降りるブランに、用心のためと、ポッテヌが貸し与えてくれたものだった。
「素人の盾」と呼ばれるその品は、普通の盾と違い、裏面の円周部分にブランには到底読めない、いかめしい文字がびっしりと刻まれている。
ポッテヌによれば、それは魔術師による加護を得た代物で、装着したものに危害が加えられようとすると、自動で反応し身を守るように動くという驚くべきものであった。
彼が、行商人というなかなかに危険な商売をしながら、無事に引退するまで生き残れたのは、この品によるところが大きいらしい。
最後に彼は「複雑な剣技なんかには反応しきれないから、過信はしないように」という注意をブランに与えた。
「そんなにビビるこたぁないんだよ。くどいようだが、村人相手に凶悪な試練を与えるわきゃないんだから」
開いた扉をくぐりながら、アリッサがこちらを振り返りもせず、あきれたような声をだす。
彼女の左手は、メディナの処置によって包帯がまかれていたが、果たしてどれほど痛むのか、そのふてぶてしい表情からは察することができなかった。
「うわぁ、天井高いなあ」
おそるおそる中へ入ったブランだったが、その第一声は、ことのほかシンプルであった。
室内は、彼の言うとおり、民家の三倍近くはあろうかという天井があり、ちょっとした体育館ほどの広さである。
天井も壁も床も、くすんだ青色の石がレンガ状に敷きつめられており、まさに「迷宮の一室」と呼ぶにふさわしいものであった。




