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「まあ、そんなにいきり立つんじゃないよ」
怪物の周りをゆっくりと弧を描いて歩きながら、アリッサは持ち前の大きな声を相手にぶつける。
「ガロン!!あんたが一番欲しがってるものをくれてやるよ。だから、この場所からとっとと立ち去るんだ!!」
そう言うなり、アリッサは指を鳴らした。
「わぁ!!」
驚きの声をあげたのは、メディナである。
今まで隣で気を失っていたミミが、いきなり立ち上がり、夢遊病者のようにフラフラと怪物の方へと歩き出したのだ。
彼女が目を閉じたまま進んでいることからして、それは明らかにアリッサの手妻によるもののようであった。
「ほら、あんたの娘のミミだよ!!!煮るなり焼くなり好きにするがいいさ」
当然の事ながら、アリッサのこの行動にブランは全力で抗議の声を上げようとしたのだが、隣にいたポッテヌに口をふさがれてしまった。
(ミ……ミ……)
アリッサの「ミミ」という言葉に反応したらしく、蜘蛛の怪物は怒りの波動をおさめ、代わりに今度は憎しみの波動を放ちはじめた。
あまたある手がふたつに割れ、中心にあるガロンの姿がミミの方を向く。
口から伸びた触手は、極上の獲物を見つけた喜びからか、嬉しそうにしなっている。
「……ちょっ!!……うぐぐ」
必死にもがくブランの耳元に、ポッテヌが小声でささやきかける。
「ここで何もしなければ、全員があの怪物の餌食になってしまう。まあ…少々荒っぽいやり方だが、あの二人に任せるんだ」
「…………あ」
ゆっくり、非常にゆっくりとガロンの方へ近づくミミの後ろで、アリッサはなるべく目立たぬ様子で口と手を動かし、何らかの術法を準備しているようだった。
そして、アリッサのすぐ背後には、いつの間に来たものか、ガンダルガが厳しい表情で仁王立ちしていた。
そうこうするうちに、ミミは、今やガロンまであと数歩という所まで来てしまっている。
(……ミ……ミ……)
邪悪な歓喜に満ちた声と共に、ガロンがそのおぞましい触手を振り上げた時である!!
「おいハゲ!!準備できたよ」
アリッサの声がロビーに響き渡る。
彼女の左手は心なしか鈍く光っているように見える。
「よしきたぁぁぁ!!!!!」
気合いの一声をあげるが早いか、老戦士は、アリッサの体を先ほどの木樽のように持ち上げると、彼女をガロンめがけて勢いよく放り投げた!!




