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「おじいちゃん!!あんまり怒っちゃだめ!!」
それまで黙って大人達のやりとりを聞いていた、老人のかたわらの少女が、たまりかねたように口を開いた。
年は十二、三といった所であろうか。
赤みががった茶色い髪を三つ編みにたらし、うぐいす色のワンピースを着た、いかにもおとなしそうな印象の女の子である。
「そうですよ、お義父さん。それに周りをよく見てください。観光客の皆様の前で取り乱して、ニーゲルンの名をおとしめるのはやめていただきたい」
ガロンからの棘のある指摘を受けると、少女に支えられた老人は、幾分落ち着きを取り戻し、ブラン達の方に向き直った。
「うむ……観光中の皆様の前で醜態をさらしてしまいましたな。誠に申し訳ない」
すると、そこへすかさずガロン村長が口を挟んだ。
「どうもご迷惑をおかけしました。こちらは私の義父で、ニーゲルン長老会の頭をつとめるニコライです。隣はその孫…つまりは、私の娘のミミです」
父親からの紹介を受けたミミは、顔を真っ赤にしてブランたちに頭を下げた。
どうやら、顔も性格もガロンにはあまり似なかったようである。
「さあ、お義父さん。彼らに家まで送らせますので、今後無理な外出は控えてくださいよ」
ガロンが目くばせすると、両脇にいた傭兵たちが素早くニコライへと近づき、両側から強引にその肩をつかんだ。
「結構じゃ!!お主らの世話になる筋合いはない!!こら、離せというに…」
「やめて!!おじいちゃんに乱暴しないで!!」
しかし、ミミが叫ぼうが、後ろの老人達が抗議の声を上げようが、傭兵たちは全く耳を貸すことなく、主の命令を遂行しようとしている。
ブランは、さすがに介護の道を選んだだけあって、とうてい目の前で行われているニコライへの扱いに黙っていることはできなかった。
「ちょっと!!ー」
ブラン、そしてほぼ同時に隣のメディナが、傭兵たちを止めようと口を開いた時、意外な事が起こった。
ボロロロロン
それまで、黙って成り行きを見ていたフェルナンドが、突然手にした竪琴をかきならしたのだ。
その場にいた全員は、思わず手を止め、彼の方に目をやった。
皆の視線が集まったタイミングを逃さず、老詩人は勢いのある、しかし悲しげな曲を奏ではじめた。
唐突さと、そして確かに見事としかいいようのない演奏の腕前によって、一同は結局、曲が終わりフェルナンドが一礼するまで棒立ちすることとなった。
パチパチパチ…
曲が終わった後の沈黙を破ったのは、ガロン村長のゆったりとした拍手だった。
「いや、実にお見事でした。どうやら、これ以上ここで事を荒だてるのは無粋のようですな。……ドース、ダイン、行きますよ」
ガロンに名前を呼ばれた二人の傭兵は、ニコライ老を解放すると、その場に背を向けて立ち去っていく雇い主の後を追っていった。
「旅の方、助けていただきありがとうございました」
ニコライが頭を下げると、フェルナンドは返事代わりに竪琴をやさしく鳴らしてみせた。
「モラリス社の方、皆様は湯〜ゲルンに泊まられるのですかな?」
「ええ、そうです」
ニコライに問われたネルガが返事をする。
「では、後ほど改めてお礼に伺わせていただきます。ミミ、行くぞ」
そう言うと、少女と長老達は元来た道へと消えていった。
「……さて!!それでは皆さん、いよいよほこらの見学に移りましょうか!!」
ネルガのいくぶん空々しい声があたりに響いた。




