死神令嬢
家に帰ってからが大変でした。
事情を説明すると、父は頭を抱え、母は泣き出しました。
「あんなギフト、碌なものじゃない。
自動的に反撃してしまうなんて、トラブルを呼ぶばかりだ。
あの家は、執念深いんだ。
これから何かと、目の敵にされる。侯爵家で同格とはいえ、社交がやりにくくなる……困ったことだ」
「だから学園など行かせず、修道院にでも入れればよかったのですわ!
娘がこんなギフトを持っていると知られたら、怖がられて、だれもうちに嫁いでくれないわ!」
両親は、二人とも私が階段から落ちずに済んだことなど、考えてはいないようでした。少しは心配してくれてもよさそうなものですが。
ギフトのおかげで、こうして無事ですのに。
あのギフトには、危害を反転させるだけでなく、私のことを守ってくれる防御の機能もあるに違いありません。
階段から落ちながらも、踊り場に着地できたのですもの。
学園に両親が出向き、また私が突き落とされたところを見ていた生徒がいて、
私の無実は証明されました。
それでも嫌なことを言う人はいます。
『不幸を呼ぶ令嬢』などと言われ、セシリア様、エリアス様ぐらいしか、話しかけてくる人はいません。
関わるとけがをさせられるとか、そういったうわさを信じる人もいるのでしょう。
でも学園長が言ったように、毅然としていましょう。
それが私の侯爵家令嬢としての矜持です。
私が突き落とされたところを見て、証言してくれた方にお礼を言わなくてはと思いました。
エリアス様のご友人で隣国からの留学生だそうです。
私と話していると、その方まで悪いうわさを立てられてしまうかもしれません。
なるべく人の来ない中庭でお会いすることになりました。
エリアス様に紹介されたその方は、身のこなし、話し方、たいへん洗練された方でした。
容姿も整っていて、エリアス様にも引けを取りません。
「初めまして。ルパート・ベルヘイムと言います。
隣国のグランベルへイムから来ました。どうぞよろしく」
あら、お名前と国名が似ているのですね。
高位の貴族の方かしら。
「初めまして。オクタヴィア・ヴァルディスと申します。
この度は、証言してくださって、ありがとうございました。
おかげさまで、無実が証明されました」
「良かったですね。やってもいないことで、責められたらたまらないよね」
「いずれ学園から通達があるでしょうから、先に申し上げますね。
私は今回のことは何もしていないのですが、ギフトのせいで危害を加えられると、自動的に反撃してしまうらしいのです。その結果、エリザベス様はけがをしてしまいました」
先にご自分が突き落とそうとしたから、階段から落ちてしまわれたエリザベス様に同情していないわけではありません。
自分が悪いとはいえ、けがをされたのはお気の毒だと思っています。
こんなことが起きないように、ギフトのことは公表するべきだと思います。
両親は反対しましたが、学園長は同じことが起きないよう、私さえよければ公表するべきだと言いました。
きっとまた私の悪評が増えることでしょう。
でもそれが今更なんだというのです。
エリザベス様は、今は退院され、ご自宅で過ごしているそうです。
まだ車椅子の生活で、学園に戻るのは少し先になるようでした。
周囲の目は冷たいですが、エリザベス様がいないので嫌がらせもなく、
比較的平穏な日々を過ごしておりました。
セシリア様、エリアス様、ルパート様、私たち四人は仲良く過ごしております。
三人とも悪評なんか気にせず、お付き合いしてくださいます。
お友達ってありがたいなぁと感謝しています。
この人たちがいなければ、私の学園生活はもっと辛いものになっていたでしょう。
学園の休みに入り、馬車で領地に戻る途中のことでした。
私と侍女の乗った馬車が襲われたのです。
護衛もいましたが、窓からのぞくと、襲撃者はこちらよりも人数が多そうでした。
馬車の中で侍女と抱き合って震えておりましたら、やがて怒号とともに襲撃者が押し寄せる音が聞こえてきました。
その時です。何人もの叫び声が聞こえ、やがて静かになりました。
護衛の扉を叩く音に安心して、外を覗いてみたら……
そこにはたくさんの襲撃者の死体がありました。
皆自分の胸に剣を突き立てていました。
侍女と私は、凄惨な光景に思わず目をそらしました。
これもギフトの力でしょうか。
自分のギフトを初めて恐ろしく感じました。
護衛が言うには、押し寄せてきた襲撃者たちは、突然自分たちの剣を胸に突き立てて死んでいったと。
我が家の護衛には、傷一つありませんでした。
侍女や護衛を含めた私への殺意が跳ね返ったということでしょうか。
今まで学園で受けた子供じみた嫌がらせとは訳が違います。
明確な殺意には、こういった反撃がされるのだと怖くなりました。
両親が秘密にせよと言ったのは、このように人から恐れられるからなのかもしれません。
そのあとは、騎士団に連絡をして後始末をお願いしてから、領地へ向かいました。
詳しい事情聴取は、後日にしてもらえました。
私もまだ冷静にお話しできる自信がありませんでしたから、後日と聞いてほっとしました。
家に帰って事情を話すと、再び両親の嘆きを聞くことになりました。
私はそんなに悪い娘なのでしょうか。
襲撃から無事に戻ってきたのですよ。
母は部屋に籠って顔を合わせてくれません。
父は苦い顔で、
「こんなことが続いて、もうお前の嫁ぎ先はないだろう。
死神のような令嬢と言われて、恐れられているからな。
卒業までは学園に通ってもいいから、卒業後は修道院に行きなさい。
お前がここにいては、兄弟たちの縁談にも差し障る。わかったな」
私は、残念で、悔しくて一人で泣きました。
私の悪評のせいでこの家に嫁いでくる人がいなければ、兄弟たちが困るのです。
私が我慢するしかないのでしょう。
それでも学園に卒業まではいられます。
残り少ない学園生活を大事にしようと思うのでした。
休みが終わり学園に戻ると、私の呼び名は『死神令嬢』と変わっていました。
あの事件のことがどこからか、伝わったのでしょう。
ため息が出ましたが、そんなことにくよくよしてはいられません。
学園生活を楽しむために戻ってきたのです。
セシリア様と、エリアス様、そしてルパート様は私が戻ってきたことを喜んでくださいました。
「オクタヴィア嬢が無事でよかった。つまらないうわさは気にしなくてよい。
我々はあなたの味方だ」
「そうです。くだらない人たちのことなんか、気にしないで過ごしましょう」
「騎士団でも襲撃者の黒幕を調べているから、いずれすべてが明らかになるだろう」
そういえば、エリアス様のお兄様は騎士団所属でしたね。
なんだか心強いお言葉です。
お友達の言葉に涙が出そうです。
ルパート様は、私が嫌なことを言われないよう、いつも馬車の迎えが来るまで車寄せで一緒に待っていてくださいました。
私は申し訳なくて、
「一人で大丈夫です」
と申し上げましたが、
「私が一緒にいたいから、気にしないで。
他人からの心ない言葉は、誰だって辛い。あなたが少しでも辛くないように側にいるんだ」
とっても嬉しいお言葉です。
こぼれそうな涙を見られぬよう、下を向くのが精一杯でした。




