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星命回帰〜星が紡ぐ未来〜  作者: ゆき太郎
第一章〜星が紡ぐ未来〜
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【第5話】星を包み込む優しい色

食事を終えた三人の間には、穏やかな時間が流れていた。


光瑠は空になった皿を見つめていた。


有理栖の居場所は分からないまま。


この世界がどんな場所なのかも。


どうして自分がここへ来たのかも。


何一つ分かっていない。


知らなければ、有理栖には辿り着けない。


光瑠は顔を上げた。


「なあ。」


「ん?」


「この世界のこと、教えてくれないか。」


ノクトはぱちりと瞬きをした。


「もちろん。」


「でも随分大きな質問だね。」


光瑠は苦笑する。


「聞きたいことが多すぎて、何から聞けばいいのか分からないんだ。」


イヴが静かに口を開いた。


「だったら一番知りたいことから聞けばいい。」


「一番知りたいこと……」


考えるまでもない。答えはすぐに出た。


「有理栖を見つけるには、俺は何をすればいい?」


「そうだねぇ。」


ノクトは少し考える。


「片っ端から聞き込みをするのもいいけど……」


「まずは騎士団を頼るのがいいかもね。」


「騎士団?」


光瑠は首を傾げる。


「門にいたカインとかのこと?」


「そう。」


ノクトは頷いた。


「まあ、カインがあんな所にいるのは珍しいんだけどね……」


ノクトはぼそりと呟いた。


「え?」


「いや、なんでもない。」


ノクトはすぐに話を戻す。


「とにかく騎士団は、王都で一番情報が集まる場所の一つだからね。」


「情報?」


「行方不明者の届け出とか。」


「保護された子供とか。」


「怪しい人物の目撃情報とか。」


「騎士団は王都の治安維持を担当している。」


イヴが静かに補足する。


「人探しなら、まず相談する価値はあるわ。」


「少なくとも、闇雲に探すよりは。」


「なるほど。騎士団は警察みたいなもんってことか。」


「ケーサツ?」


「いや、なんでもないよ。」


「じゃあ次、ここはアストラルの国って言ってたよな。で、王都ルザリア?見たところかなり大きな街っぽいけど、他にも大きな街ってあるのか?」


有理栖を探す。


そのためには、この世界を知らなければならない。


「あるよ。」


ノクトは尻尾を揺らした。


「アストラル王国には王都ルザリアの他にも大きな都市がある。」


「北にある光の都ルミナス。」


「東の海岸にある貿易都市アクエリア。」


「この2つは王都に負けないくらい栄えてるよ。」


「へぇ。」


思ったよりもずっと大きな国らしい。


「あとは他にいくつも街や村はあるけど、だいたいどこにでも騎士団は駐在してるよ。」


「なるほどな。騎士団は大都市だけじゃなく王国中に配置されてるってことか。」


「アストラル王国は代々騎士たちが国を支えてきたからね。」


「そうすると益々騎士団に頼るのが一番良さそうだな。」


ノクトは頷く。


「騎士団の詰所は仕事の依頼も集まるんだ。」


「一般の人でも受けられる仕事を紹介してもらえたりもするよ。」


「なるほど仕事まで世話してくれるのか。警察兼ハローワークってとこか。」


「はろーわーく?」


ノクトが首傾げる。


「それもヒカルの世界の言葉?」


「ああ。俺の世界では仕事を紹介してくれる場所の事だよ。」


「なるほど。騎士団はケーサツにはろーわーく……」


ノクトは聞き慣れない言葉を口の中で転がすように繰り返した。


光瑠はノクトを改めて見つめる。


「そういえば今更だけどノクトって結局何者なんだ?ただの喋る猫とは思えないんだけど。」


「僕は猫じゃなーい!」


ノクトはぴょんとテーブルへ飛び乗った。


「ふふふ……。」


「ついに正体を明かす時が来たようだね。」


ノクトは胸を張る。


「僕はノクト!」


「星霊にしてイヴを守るナイトなのさ!」


「精霊?」


「精霊じゃなくて星霊ね!似てるけど全然違うんだからね!」


ノクトは得意げにしっぽを揺らした。


「ふーん。こんなに可愛い猫が星霊ね。」


「だから猫じゃ……にゃふ……。」


光瑠に首元を撫でられ、思わず喉を鳴らしてしまう。


「……こほん。」


「猫じゃないけど、僕が可愛いのは否定しないさ。」


「それに、イヴに魔法を教えたのは僕なんだよ、ヒカル。」


「え!そうなの?」


光瑠は目を丸くする。


「本当よ。」


イヴは静かに答える。


「本気になったノクトは私よりずっと強いわよ。」


「ふっふっふ。」


ノクトは得意げに胸を張る。


「どうだいヒカル?」


「少しは僕のことを見直してくれたかな?」


「猫も見かけによらないんだな。」


光瑠は素直に感心した。


「だから猫じゃないって……」


光瑠は昼のことを思い出す。


狼に追われていたノクト。


あの時は命からがら逃げているのだと思っていた。


だが今思えば、あの動きにはどこか余裕があった。


「じゃあ俺がノクトを助けた意味って……」


「まあ、あの程度の魔物なら僕の敵じゃないね。」


「マジかよ……」


光瑠はがっくりと肩を落とす。


「でも……」


「危険を顧みず、助けてくれたのは嬉しかったよ。ありがとうね、ヒカル。」


ノクトは優しく笑った。


「ノクトが魔物と遊んでたりしなければ、あなたも余計な怪我をしなくて済んだのに。」


イヴは呆れたようにノクトへ視線を向ける。


「ぎくっ……」


ノクトの表情が固まる。


光瑠は苦笑した。


「でも、そのおかげで俺もノクトの命の恩人ってことだろ。」


「……ふふ。」


ノクトは嬉しそうに笑った。


光瑠はイヴの魔法を思い返す。


魔狼を圧倒した青い閃光。


自分の傷を癒した優しい緑の光。


「イヴの魔法……綺麗だった。」


「魔法使いって、みんなあれくらいできるもんなのか?」


ノクトは首を横に振る。


「イヴは特別さ。」


「そんじょそこらの魔法使いじゃ、イヴには敵わないよ。」


「そうなのか。」


光瑠はイヴへ視線を向けた。


「イヴって……凄いんだな。」


少し間を置いて、光瑠は再びノクトを見る。


「魔法って誰でも使えるのか?」


「うーん、誰でも使えるけど、誰でも同じようには使えないかな。」


光瑠は首を傾げる。


「なんだそれ?」


「まず魔法を使うには、体の中にある『魔力』が必要なんだ。」


「魔力?」


「うん。誰でも多少は持ってるよ。」


「ただ、その量には個人差がある。鍛えれば増やせるけど、生まれ持った才能も大きいね。」


「それにもう一つ。」


「魔法には属性がある。」


「どの属性が得意かは、生まれつきの適性で決まるんだ。」


「属性?適性?」


「そう、魔法には大きく七つの属性があってね。」


ノクトは前足の先に小さな火球を灯した。


「火。」


火球が消えると、今度は透き通る氷の結晶がふわりと浮かぶ。


「水。」


続いて石の欠片が宙に舞い、

風が部屋をそっと撫で、

紫電が指先ほどの大きさで弾ける。


「土。」


「風。」


「雷。」


「そして……」


光球が灯る。


「光。」


続いて黒紫の球体が現れる。


「闇。」


黒紫の球体を見つめるイヴの瞳が、ほんのわずかに揺れた。


「じゃあさ。」


「俺の魔力の属性?適性?って調べれたりするのかな?」


光瑠はワクワクして尋ねる。


「魔力の色を見分けることは僕でも出来るよ。」


ノクトは光瑠の膝に飛び乗り、胸に前足を当てる。


「どれどれ、ちょっと見せてごらん。」


ノクトは目を瞑る。


「……なるほど。」


「光瑠の属性は……」


「闇だ。」


イヴの視線が、わずかに光瑠へ向いた。


「闇?」


光瑠は思わず聞き返した。


ノクトは光瑠の顔を覗き込む。


「……闇って聞くと、怖いって感じる人も多いんだ。」


「……ヒカルも、そう思っちゃうかな?」


光瑠は少しだけ考えた。


「いや。」


窓の外へ視線を向ける。


「光も闇も、それだけで善悪が決まるわけじゃない。」


夜空には、小さな星々が瞬いていた。


「不安に思える夜の闇も、星を包み込む優しい色だって、俺は思うよ。」


イヴは思わず目を見開き、光瑠を見つめた。


やがて静かに視線を夜空へ移す。


ノクトは何も答えず、嬉しそうに尻尾を揺らした。


「……夜も遅いわ。」


イヴは静かに立ち上がる。


「今日はもう休みましょう。」


「明日は騎士団の詰所まで案内する。」


「朝の鐘が鳴ったら準備して、宿の入口まで来て。」


「いいのか?案内までしてもらって。」


「ヒカルは詰所の場所なんて分からないでしょ?イヴが案内するって言うんだから素直に甘えなよ。」


「……ありがとうな。ノクト、イヴ。」


イヴとノクトは部屋を後にする。


「おやすみ〜、また明日ね〜。」


「ああ、また明日。」


ガチャン


部屋のドアが閉じる。


光瑠はベッドへ横になった。


今日一日で起きた出来事が頭を巡る。


有理栖。


アストラル王国への転移。


迷い人。


イヴ。


ノクト。


そして――


「闇……か。」


小さく呟く。


窓の外では、星が静かに瞬いていた。


やがて眠気に抗えなくなり、意識は静かに闇へ溶けていった。

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