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星命回帰〜星が紡ぐ未来〜  作者: ゆき太郎
第一章〜星が紡ぐ未来〜
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【第3話】金色の騎士

有理栖が、この街にいるかもしれない。


その一心で、光瑠は城門を目指して走っていた。


やがて白亜の巨大な城壁が目前に迫る。


見上げるほど高い城門。


その脇には小さな詰所が建ち、一人の衛兵が門を見張っている。


光瑠は息を整えると、その門へ向かって歩き出した。


「ようこそ王都ルザリアへ。身分証はお持ちか?」


「え?身分証?」


「紹介状でも、何か身分の証明ができるものはあるか?」


「えーと、ちょっと待ってください。」


カバンを漁る。


光瑠は慌ててカバンを開いた。


携帯。

双眼鏡。

ハンカチにティッシュ。

水筒。


財布を開く。


「……あった。」


原付の免許証を取り出した。


「これで…いいですか?」


衛兵は目を細め、免許証をじっと見つめる。


「これは……?」


眉をひそめた。


「なんて書いてあるんだ?」


衛兵は詰所の方へ振り返る。


「おい、誰か副団長を呼んでくれ!」


奥にいた衛兵が返事をし、詰所の中へ駆け込んでいった。


しばらくすると詰所から一人の青年騎士が姿を現した。


陽光を思わせる金髪。


金色の瞳。


腰には装飾の施された立派な剣を下げている。


人当たりの良さそうな笑みを浮かべていた。


騎士は光瑠に歩み寄り、服装を上から下まで眺めた。


「君、珍しい服を着てるね。それにこの紙、見たことの無い文字が書かれている。一体どこから来たんだい?」


光瑠の背中を冷たい汗が伝った。


まさか免許証が通じないとは思わなかった。


いや、考えてみれば当然だ。


ここは日本ではない。


少なくとも、自分の知る世界ではないのだから。


「いや、それが俺にもよく分からなくて……」


「分からない?」


「気づいたら丘の上にいて。」


「妹とはぐれたんだ。」


光瑠は言葉を続ける。


「十一歳で、俺と同じ黒髪の女の子だ。もしかしたら街の中に――」


「君の言う丘とは、あそこの丘のことか?」


騎士は光瑠の言葉を遮るように問いかける。


光瑠は騎士の指を指した方向を見る。


「ああ、あの丘で間違いない。」


「近頃、あの丘には近付く者などほとんどいない。」


「君はなぜあの丘にいた?」


「なぜって…気づいたらあそこにいたんだ。」


先ほどまで穏やかだった金色の瞳が、いつの間にか鋭さを帯びている。


「あの丘の付近では魔物による被害が相次いでいる。魔物を操る黒髪の男の情報も目撃されている。」


俺と同じ黒髪……


「何が言いたいんだ。あの狼の魔物と俺は関係ない!」


「魔物が狼型であることは公開されていない。君は魔物と遭遇したのか?」


「ああ、さっき丘の下の街道でその狼に襲われたんだよ。」


「あの魔物は一般人の手に負えるものではないのだが…君はその魔物を倒したのかい?」


「違う! 通りすがりの魔法使いに助けられたんだ。」


「その魔法使いの名前は?」


光瑠は口を開きかけて止まる。


イヴは自ら名乗っていなかった。


勝手に名前を出していいのか分からない。


「……知らない。」


「その魔法使いはどこへ?」


「ここへ来る途中で別れた。」


騎士は深くため息を吐いた。


「つまり君は、身元不明の魔法使いに助けられたと主張しているわけだ。」


「主張って……本当に助けてもらったんだよ!」


「君の話が全て嘘だと言っているわけじゃない。」


「だが現状、身元を証明できる者が誰もいない。」


騎士は穏やかな笑みを浮かべた。


だが目だけは笑っていない。


「もう少しだけ話が聞きたいのだが、ご同行願えるだろうか?」


気付けば周囲の衛兵たちが、さりげなく光瑠を囲む位置へ移動していた。


どう見ても断れる雰囲気ではない。


光瑠は唾を飲み込む。


その時だった。


「あれ?」


聞き覚えのある間の抜けた声。


「ヒカル、何してるの?」


光瑠は勢いよく振り返った。


城門へ続く街道の先。


一匹の黒猫がこちらへ歩いてくる。


その後ろには青い髪の少女。


「ノクト!」


思わず声が漏れた。


ノクトは光瑠と衛兵たちを見比べ、きょとんと首を傾げた。


「もしかして捕まった?」


「捕まってない!」


「まだ事情を聞いているだけだ。」


騎士が穏やかに言った。


「今のところは、ね。」


ノクトはイヴへ振り返る。


「ほら、ヒカルやっぱり捕まってたよ。」


「だから捕まってないって!」


イヴは騎士の前まで歩み寄る。


ローブの内側から一通の封書を取り出した。


それを無言で差し出す。


騎士はそれを受け取り確認する。


「ここを通していただきたいのですがよろしいですか?」


騎士は封書へ目を落とした。


そしてわずかに目を見開く。


「これは……」


すぐに表情を整える。


「どうぞお通りください。」


「それと、そこの彼は魔狼に襲われているところを私が保護しました。」


「一緒に通してもらってもよろしいですか?」


騎士は光瑠を見る。


「失礼ですが、彼とはどういうご関係で?」


「彼は……」


イヴは言葉を止める。


一瞬だけ光瑠を見る。


「……私の家族の命の恩人です。」


光瑠はぽかんとイヴを見る。


騎士は目を見開いた。


そして静かに頷く。


「承知しました。」


「あなたが保証なさるのでしたら問題ありません。」


ノクトは満足そうに尻尾を揺らした。


騎士は衛兵たちに目で合図を送る。


周囲の衛兵たちは警戒を解いたように持ち場へ戻っていく。


「開門!」


騎士の号令が響く。


重々しい音を立てながら、城壁の大門がゆっくりと開き始めた。


騎士は光瑠に向き直り深々と頭を下げる。


「失礼な尋問になってしまったことは謝罪しよう。」


「だが、職務上仕方ないことだったと理解してもらえると助かる。」


「ほんとだよ。仕事熱心にも程があるって。」


光瑠の言葉に、カインはわずかに苦笑する。


「否定はできないな。」


「お詫びになるかは分からないが、もし君が困った時は遠慮なく私を頼ってくれ。」


「色んな意味で、もう皆さんの世話にはなりたくないんだけど…」


光瑠が呆れたように肩をすくめる。


正直、疑いをかけられたことには腹が立った。


だが、彼の態度に一切の嫌味は感じなかった。


職務だから疑った。


疑いが晴れたから謝る。


それだけなのだろう。


騎士は頭を上げ、手を差し出した。


「アストラル王国騎士団のカイン・クライレットだ。」


「星川 光瑠、一般人だ。」


「はは。」


カインは小さく笑った。


「覚えておこう。」


光瑠は差し出された手を握り返した。


「ヒカルー。せっかく通してもらえるんだから早く行こーよー。」


「あ、ああ!すぐ行くよ!」


光瑠はノクトたちの方へ駆け出した。


だが数歩進んだところで、ふと振り返る。


「じゃあな、カイン。」


光瑠は笑った。


「次会ったら俺の力になってくれよ!」


カインは小さく笑う。


「ああ。」


「その時は喜んで協力しよう。」


光瑠は大きく手を振った。


「約束だからな!」


「ああ、約束だ。」


そう返すカインの声を背に、光瑠はノクトたちの元へ駆けていった。

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