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星命回帰〜星が紡ぐ未来〜  作者: ゆき太郎
第一章〜星が紡ぐ未来〜
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【第2話】迷い人

「……あなた、死にたいの?」


青い髪の少女は光瑠へ冷たい視線を向けている。


「いや、俺は…」


「見せて。」


「え?」


「肩。」


イヴの視線が光瑠の右肩へ向けられる。


狼の牙が掠めた場所から、まだ血が流れていた。


少女は返事も待たず光瑠の腕を掴んだ。傷口に手をかざす。


「っ!」


「我慢して。」


少女の唇が静かに動く。


「――エイル。」


少女の掌に緑色の光が渦巻く。


その光は光瑠の肩の傷を包み込み、傷口へと染み込んでいく。


焼けるような痛みが次第に和らいでいった。


光瑠は目を見開く。


「なんだ……これ……」


熱を持っていた傷口が嘘のように静まっていた。


ふっと緑の光が消える。


光瑠は恐る恐る肩に触れた。


「……治った?」


「血を止めただけ。完全には治ってないわ。」


「…あ、ありがとう。」


「別に。」


少女は素っ気なく答える。


「回復はあまり得意じゃないの。傷が広がるようなら、ちゃんとした所で診てもらって。」


「僕の命の恩人だよ?もう少し優しくしてあげなよ〜」


突然、可愛らしい子供のような声が聞こえる。


「え?」


光瑠は辺りを見渡すが、辺りに少女以外には誰もいない。


「おーい、こっちだよ〜。」


光瑠は座ったまま足元に視線を落とす。紫紺の瞳の黒猫がこちらを見つめている。


「猫が…喋った?」


「僕はノクト。さっきは助けてくれてありがとうね。」


光瑠は固まった。


数秒遅れて脳が理解する。


「いや待て。」


「喋ってる?」


ノクトは首を傾げる。


「うん。」


「猫が!?」


「猫じゃないけど。」


「じゃあなんなんだよ…」


「ふふふ、それは秘密さ。」


ノクトは意味ありげに尻尾を揺らした。


「それより君、変わった服装してるね。どこから来たの?」


「俺は…流星群を見てたら、星が落ちてきて。真っ白で、真っ暗で、扉を開けたら丘の上で。」


「なるほど。全然分からん。」


ノクトは首を傾げる。


話しながら光瑠はハッとする。


そうだ。


自分のことより先に確認しなければならないことがある。


「妹だ。」


「え?」


「俺、妹を探してるんだ。」


「年は十一歳。俺と同じ黒髪で、目の色も俺と同じだ。」


光瑠は胸元から星のネックレスを取り出した。


「これと同じネックレスを付けてる。」


ノクトとイヴは顔を見合わせる。


「うーん、ごめんだけど、この辺で君以外の人間は見かけてないな〜。イヴは誰かに会ったかい?」


「誰も見てない。」


イヴと呼ばれた少女は短く答えた。


少し間を置いて、


「あと、しれっと私の名前までばらさないで。」


と目を細める。


「あらら、これはうっかりだったね。」


ノクトは悪びれる様子もなく笑った。


「誰も見てない、か。」


光瑠はがっくりと肩を落とす。


胸の奥が重く沈む。


重くなった空気を払うように、ノクトが口を開いた。


「君の名前はなんていうの? こっちだけ名乗っといてフェアじゃないよ。」


「フェアも何も、聞かれる前に勝手に名乗ってただろ?」


光瑠は苦笑した。


「あはは。そういえばそうだね。」


「星川光瑠だ。」


「よろしくな、ノクト。」


少し照れくさそうに笑って、


「……イヴも。」


ふん、とイヴは視線を逸らす。


「ふーん聞いた事のない苗字だね。君ってどこかいいとこの生まれの人なの?」


ノクトは不思議そうな顔で尋ねる。


「いや、普通の家だけど。」


光瑠は首を傾げる。


「そんなに変な名前か?」


イヴの眉がわずかに動く。


「星川なんて姓、この辺じゃ聞いたことがない。」


イヴは光瑠の服装へ視線を向けた。


「その服も見たことない。」


「……?」


「本当にアストラルの人間?」


「あすとらる?」


光瑠は再び首を傾げた。


「なんだそれ。」


イヴの眉がぴくりと動く。


「知らないの?」


「ああ、初めて聞いた。」


イヴとノクトが顔を見合わせた。


「アストラルはこの国の名前さ。」


ノクトは当然のように言った。


「君、本当に何にも知らないでここまで来たのかい?」


「ここが……アストラル?」


光瑠は眉をひそめる。


聞いたこともない名前だった。


少なくとも、自分の知る国ではない。


「どういうことだ?」


「それを聞いてるのはこっちなんだけどなぁ。」


ノクトは呆れたように尻尾を揺らした。


そして紫紺の瞳を真っ直ぐ光瑠へ向ける。


「もう一度聞くよ。君、一体どこから来たの?」


その問いに。


光瑠は言葉を失った。


目を覚ました丘。


見知らぬ城壁都市。


赤い目の狼。


狼を打ち倒した青い閃光。


傷を癒やす緑の光。


そして――喋る黒猫。


一つ一つを思い返すほど、現実感が薄れていく。


あり得ない。


そんなことがあるはずがない。


だが、実際に目の前で起きている。


光瑠はゆっくりと拳を握った。


「俺は……」


喉がひどく渇いていた。


「俺は、多分……」


言葉を探す。


故郷の街。


有理栖。


流星群。


そして、あの扉。


「凄く遠いところから来たんだと思う。」


「へぇ……」


ノクトは興味深そうに目を細めた。


「もしかして君、迷い人だったりする?」


「迷い人?」


聞き慣れない言葉に光瑠は首を傾げる。


「この世界に突然現れる人たちのことさ。」


ノクトはしっぽを揺らした。


「知らない知識を持ってたり、見たこともない道具を作ったり。昔からたまーに現れるんだって。」


「そんなのがいるのか……」


「まあ、変わり者が多いって話だけどね。」


ノクトはくすりと笑う。


光瑠は思わず眉をひそめた。


「それ、俺のこと言ってる?」


「言ってる。」


イヴが即答する。


「言ってるのね。」


「うん。」


ノクトも頷く。


生まれて初めて変人扱いされた。


光瑠は片手で頭を抑える。


「迷い人って結構いるのか?」


光瑠が尋ねる。


ノクトは首を横に振った。


「いや、そうそう見ないよ。」


紫紺の瞳が興味深そうに光瑠を見上げる。


「もし君が本当に迷い人なら、僕が会うのは二人目だね。」


ノクトは少し考えるように尻尾を揺らした。


「それに、妹さんも君と同じなら目立つと思うよ。」


「目立つ?」


「うん。見たことのない服装に、聞いたことのない苗字。」


ノクトは光瑠を見上げる。


「少なくとも普通の人よりは覚えられやすいんじゃないかな。」


光瑠の胸に小さな希望が灯った。


「ありがとう、ノクト。」


思わず黒猫の頭をわしゃわしゃと撫でる。


「わっ、ちょっ――」


「有理栖を見つけられるかもしれない。」


ノクトは耳をぺたんと倒した。


「毛並みがくしゃくしゃになっちゃうよ。」


光瑠は笑う。


久しぶりに笑った気がした。


そしてイヴへ向き直る。


「それとイヴも。」


「……?」


「助けてくれてありがとう。」


真っ直ぐ頭を下げる。


「君がいなかったら本当に死んでた。」


イヴは少しだけ目を逸らした。


「別に。私は魔物を排除しただけよ。」


「それでも助かった。」


光瑠は城壁都市を見た。


「俺、街へ行ってみる。」


「聞き込みでもするの?」


ノクトが首を傾げる。


「ああ。」


「有理栖が近くにいるなら、誰かが見てるかもしれない。」


「街の中に宛はあるの?」


「ないけど…片っ端から聞いて回るさ。迷い人は目立つ、だろ?」


光瑠は城壁都市へ走り出した。


「二人とも!妹を見つけたらお礼をさせてくれ!本当にありがとう!」


あっという間に光瑠の背中は遠ざかっていく。


ノクトはその背中を見送りながら小さくため息を吐いた。


「大丈夫かなぁ。」


「何が?」


イヴは素っ気なく返す。


「街の中に知り合いもいないんでしょ?」


「さあ。」


「身分証も持ってなさそうだったし。」


「……。」


「絶対どこかで困ると思うんだけどなぁ。」


ノクトは尻尾を揺らした。


イヴは黙ったまま城壁都市の方を見る。


しばらくして、


「……私には関係ない。」


そう呟いた。


だがその視線は、まだ遠ざかる光瑠の背中を追っていた。

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