↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星命回帰〜星が紡ぐ未来〜  作者: ゆき太郎
第一章〜星が紡ぐ未来〜
16/18

【第15話】未来への誓い

ノクトが消えた。


光瑠は、伸ばした手を下ろせずにいた。


――


「素晴らしい一撃でした。」


「っ……!」


その声に、光瑠は息を呑む。


背筋を凍らせるような殺気が走る。


土煙の中から、老人がよろめきながら歩み出た。


全身は傷だらけだった。


老人の剣にはひびが入り、刃は大きく刃こぼれしている。


それでも老人は、一歩ずつ光瑠たちへ歩みを進めていた。


「やれやれ、死ぬところでしたよ。」


光瑠は魔法の反動で膝をついたまま動けない。


震える指先に力が入らなかった。


「あのような魔法を使えるとは。」


「驚きました。」


「やはり貴方は面白い。」


老人は血を吐いた。


それでも剣を構え、迷うことなく一歩踏み出した。


「くっ……そ……」


光瑠は動けない。


老人は静かに剣を突き出す。


その瞬間――


一筋の青髪が、光瑠の前へ躍り出た。


「――シエル!」


イヴの手から放たれた青い閃光が老人の剣を迎え撃つ。


パキィィィン!!


ひびだらけだった老人の剣は、ついに耐えきれず砕け散った。


老人は目を見開く。


やがて穏やかな微笑みを浮かべた。


「お見事です。」


次の瞬間――


剣を失ったはずの老人が、一歩踏み込む。


左掌がイヴの胸元へ叩き込まれた。


「かはっ!」


老人の掌から黒紫の魔力が一気に流れ込む。


触れた胸元からローブが裂け、その下の白い肌へ黒紫の紋様が焼き付くように刻まれていく。


「あっ……ぐっ……!」


イヴの瞳が大きく揺れる。


胸元を押さえ、苦痛に耐えきれずその場へ膝をついた。


「イヴ!」


光瑠が叫ぶ。


老人の身体がわずかによろめく。


「ごふっ……」


鮮血が地面を濡らした。


老人は片膝をつく。


「これ以上は……私の体が保ちませんな。」


老人は荒く息を吐く。


「……潮時です。」


老人はゆっくりと顔を上げた。


その視線が、一度だけ光瑠へ向けられる。


「今夜を生き延びることができたのなら。」


「またお会いしましょう。」


老人は静かに背を向けた。


数歩歩くと、その姿は闇へ溶けるように消えていった。


光瑠は老人の消えた姿を見届けると、すぐにイヴへ向き直った。


震える身体に鞭を打ち、イヴの元へ駆け寄る。


イヴは胸を押さえ、苦しげに身体を震わせていた。


「うっ……あっ……」


黒い紋様が、イヴの全身へゆっくりと広がっていく。


光瑠はイヴをそっと抱き起こす。


「これは……呪術……なのか?」


グルルルル……


光瑠はハッと顔を上げる。


気づけば、魔狼たちが周囲を取り囲んでいた。


魔狼の群れが左右へ割れる。


「やれやれ。」


「ようやく静かになったようだな。」


「ここからは俺が好きにやっていいってことかな〜?」


その奥から、黒髪の男がゆっくりと姿を現した。


光瑠はイヴを抱く手に力を込めた。


立ち上がろうとする。


しかし、膝に力が入らない。


男は口元を歪める。


「諦めろよ。お前らはここで死ぬんだ。」


「くそっ……」


それでも光瑠は、男から目を逸らさなかった。


「ヒカ……ル……」


掠れるような声に、光瑠ははっと振り返る。


イヴは苦しげに唇を震わせた。


「逃げ……て……」


「何言ってんだ!」


「置いて行けるわけないだろう!」


イヴは、かすかに首を横へ振る。


「お願い……生きて……」


光瑠は真っ直ぐイヴの瞳を見つめる。


「イヴ。」


光瑠はイヴの手を握った。


あの日、伝えられなかった言葉が胸の奥から溢れ出す。


「俺は、俺は君を――」


「絶対に未来へ連れていく!」


イヴは目を見開く。


やがて、震える手で微かに光瑠の手を握り返した。


黒髪の男が手を上げる。


周囲の魔狼たちが一斉に飛びかかった。


光瑠はイヴを庇うように強く抱きしめる。


歯を食いしばり、その衝撃を待った。


キィン――


甲高い金属音が夜の山へ響く。


次の瞬間。


飛びかかった魔狼たちが、次々と両断された。


「なっ……!」


黒髪の男の表情が凍りつく。


視界の端で、陽光を思わせる金髪が煌めいた。


白い制服をまとい、赤いマントを翻した騎士が剣を静かに振り払う。


斬り伏せられた魔狼たちは、次々と黒い粒子となって消えていく。


「遅くなってすまない。」


「カイン!」


「ヒカル、よく頑張った。」


カインは黒髪の男へ静かに視線を向ける。


「あとは任せろ。」


黒髪の男はカインを睨みつけた。


「あとは任せろ、か。」


「随分と余裕じゃねぇか。」


男のネックレスに埋め込まれた星の欠片が妖しく赤く輝く。


足元から黒い影が大地を這うように広がった。


その闇の中から、魔狼たちが次々と姿を現す。


「召喚ではないな……転移魔法か。」


カインは小さく息を吸う。


そして静かに剣を構えた。


キィン――


光瑠の視界から、カインの姿が消える。


次の瞬間。


魔狼たちの身体が一斉によろめいた。


遅れて、その首が宙を舞う。


魔狼たちは黒い粒子となって消えていった。


再び視界に映った時には、カインはすでに黒髪の男の目前へ立っていた。


挿絵(By みてみん)https://51691.mitemin.net/i1197265/


「なっ……!」


男は咄嗟に手をかざす。


しかし――


もう遅い。


白刃が一閃した。


男の首元からネックレスが弾け飛ぶ。


赤く輝いていた星の欠片は光を失いながら宙を舞い、光瑠の足元へ静かに転がった。


男は鮮血を散らし、その場へ崩れ落ちる。


カインは男を見下ろし、静かに口を開く。


「致命傷ではないはずだ。」


「王都で事情を聞かせてもらうぞ。」


カインは剣の血を払う。


「くっ……そ……」


「誰が……」


ドクンッ。


男の身体が大きく震えた。


男は胸を押さえ、苦しげに目を見開く。


「ぐあああああっ!!」


男は胸を掻きむしりながら地面を転げ回る。


全身から黒い魔力が噴き出した。


「なんで……!」


「俺は選ばれたはず……」


男は喉を押さえ、必死に空気を求める。


「ぐっ……あ……」


やがて全身から力が抜ける。


男は目を見開いたまま、動かなくなった。


その瞳に、もう光は宿っていなかった。


カインは男へ歩み寄る。


「これは……もう絶命している。」


光瑠は息を切らしながら、動かなくなった男を見つめた。


その時――


足元で、かすかな赤い光が揺らめく。


光瑠はゆっくりと視線を落とした。


そこには、淡く赤い光を放つ星の欠片が転がっていた。


「星の……欠片……」


光瑠は赤い星の欠片を拾い上げた。


その瞬間――


赤い光が静かに溢れ出す。


「これは……?」


光瑠の手を伝い、その光はイヴへ流れていく。


イヴの身体を優しく包み込んだ。


「あっ……」


イヴの苦しげな吐息が漏れる。


黒い紋様が震えた。


まるで拒絶するように、黒紫の魔力がうごめく。


少しずつ。


全身へ広がっていた黒い紋様が、胸元へ押し戻されていく。


強張っていたイヴの肩から力が抜けた。


荒かった呼吸が、少しずつ落ち着いていく。


やがて。


赤い光は静かに薄れ、星の欠片は輝きを失った。


全身を覆っていた黒い紋様は消え去り、胸元に刻まれた紋様だけが静かに残る。


イヴは浅く息を吸う。


「はぁっ……」


安堵したように瞼がゆっくりと閉じられ、そのまま意識を失った。


「っ! イヴ!」


光瑠は慌ててその身体を抱き寄せる。


返事はない。


だが、心臓は確かに鼓動していた。


呼吸も止まってはいない。


……気を失っているだけだ。


光瑠は安堵の息をついた。


イヴの破れた胸元へ、自分のパーカーをそっと掛ける。


カインが光瑠の元へ歩み寄り、腰を落とした。


「ヒカル、無事かい? 怪我はないか?」


光瑠はゆっくりと顔を上げる。


「カイン……来てくれて、本当に助かった。」


光瑠は深く頭を下げた。


「ありがとう。」


「礼には及ばない。」


「彼女は? 無事なのか?」


カインはイヴへ視線を落とし、静かに尋ねる。


「ああ。」


「気を失ってるけど、呼吸も脈もある。」


荒かった呼吸は、先ほどよりも落ち着いていた。


「まさか、こんなに早く力を借りることになるなんてな。」


光瑠は苦笑しながら顔を上げた。


「困っている民を守り、救う。それが騎士団の役割さ。」


カインは穏やかに微笑む。


「立てるか? 王都へ戻ろう。」


「ああ。」


光瑠は大きく息を吸う。


震える足に力を込める。


イヴを抱き上げ、ゆっくりと立ち上がった。


一歩踏み出した、その時。


力の抜けた足がわずかによろめく。


その身体を、カインがそっと支えた。


光瑠は照れくさそうに笑う。


やがて騎士団が合流し、光瑠たちは『旅人の隠れ家』まで護送された。


光瑠の意識は極度の疲労で朦朧としていた。


宿までの道のりは、ほとんど覚えていない。


気づけば、『旅人の隠れ家』の部屋へ戻っていた。


光瑠はイヴをそっとベッドへ寝かせる。


イヴは静かに寝息を立てていた。


光瑠は手の中の星の欠片へ視線を落とした。


赤い輝きはすでに失われ、それでも石の奥には鈍い赤色が静かに残っている。


この星の欠片が、イヴを蝕んでいた呪術を抑え込んだ。


なぜ。


敵が持っていた星の欠片が、イヴを救ったのか。


「う……あ……」


不意に、イヴが苦しげにうなされる。


その手は、何かに怯えるように震えていた。


光瑠はそっと、その手を握る。


しばらくすると、イヴの呼吸は少しずつ落ち着き、


やがて静かな寝息へと戻っていった。


光瑠はほっと息をついた。


張り詰めていた肩から、ゆっくりと力が抜けていく。


極度の疲労には、もう抗えなかった。


光瑠はベッドの脇にもたれかかるように座り込む。


イヴの手を握ったまま、静かに眠りへ落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。