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星命回帰〜星が紡ぐ未来〜  作者: ゆき太郎
第一章〜星が紡ぐ未来〜
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【第11話】蒼星と紅蓮

光瑠はノクトの見据えた方向へ目を向ける。


屋根の上。


黒い影が一つ。


その闇の中で、二つの赤い瞳だけが妖しく光っていた。


「イヴ、あそこ――」


光瑠が言い終えるより早く、イヴは静かに片手をかざす。


「――シエル。」


詠唱と同時に、掌から青い閃光が一直線に放たれる。


閃光は夜空を切り裂き、ステージの斜め上、屋根の上の黒い影を、正確に貫いた。


ドサッ――


魔狼の身体が屋根から転がり落ちる。


地面へ叩きつけられたその身体は、黒い粒子となって霧散した。


「え……?」


「な、何だ今の……?」


突然の出来事に、音楽隊の演奏が止まる。


広場は一瞬にして静まり返った。


そして――


グオオオオオオオオオッ!!


耳をつんざくような咆哮が、夜空を震わせた。


光瑠の全身を悪寒が駆け抜ける。


「来る……!」


次の瞬間。


闇の中から、無数の赤い瞳が灯った。


屋根の上。


建物の陰。


路地の奥。


そして広場を囲むように――


魔狼たちが、ゆっくりと姿を現す。


イヴは鋭く辺りを見渡した。


広場の四方。


屋根の上。


至る所に魔狼が現れていた。


「きゃああああああ!」


一人の女性の悲鳴を皮切りに、広場中の人々が一斉に逃げ惑う。


イヴは静かに天へ手をかざした。


「――リア・シエル。」


青白い光球が、一つ、また一つと夜空へ浮かび上がる。


まるで夜空に新たな星々が灯ったかのようだった。


無数の光球から、青い閃光が一斉に放たれる。


閃光は逃げ惑う人々の間を縫うように駆け抜け、魔狼だけを正確に撃ち抜いていく。


「す、すごい……」


光瑠は目の前の光景に息を呑む。


青い閃光は、一匹たりとも撃ち漏らさない。


広場を埋め尽くす魔狼たちは、なすすべもなく撃ち落とされていく。


(これが……イヴの本当の実力……!)


ノクトはそんな光瑠を横目で見て、小さく呟いた。


「……本当に現れたね。」


紫紺の瞳が、静かに光瑠を見つめた。


「ヒカル。」


「君は、一体何者なんだい?」


「ノクト……」


光瑠は言葉を失い、ただノクトを見つめることしかできなかった。


「……まあ、その話は、全部終わってから聞かせてもらうよ。」


ノクトはそう言うと、静かに前を向いた。


イヴが光瑠へ鋭い視線を向けた。


「何をしているの。」


「あなたは魔狼を操っている黒髪の男を探して。」


「っ!」


「……分かった!」


光瑠は広場を見渡した。


あちこちで悲鳴が響く。


人々は我先にと逃げ惑い、その間を縫うように魔狼が駆け回っている。


逃げ惑う人々の波が視界を埋め尽くし、黒髪の男の姿はどこにも見えない。


さっきまで祭り一色だった広場は、一瞬にして戦場へと変わっていた。


(あいつはどこだ……!)


光瑠は人波の隙間を縫うように、黒髪の男の姿を探し続けた。


イヴがどれだけ魔狼を撃ち倒しても、新たな魔狼が次々と姿を現す。


(おかしい……。)


(どれだけ倒しても、減らない……。)


光瑠は広場全体へ視線を巡らせる。


(そもそも……あいつらは、どこから現れてるんだ?)


逃げ惑う人々の隙間から、魔狼の動きを必死に追う。


そして――


気づいた。


一つの路地から、魔狼が次々と飛び出してきている。


しかも、その数は他の場所とは比べものにならない。


「あそこだ……!」


「イヴ! 見つけた!」


イヴは光瑠の指差す先へ視線を向ける。


路地の奥。


次々と魔狼が姿を現していた。


「……あそこが発生源。」


イヴはすぐに広場全体へ目を向けた。


まだ逃げ遅れた人々が大勢いる。


「ノクト。」


「彼と一緒に行って、術者を探して。」


ノクトは目を見開いた。


「イヴ……それは駄目だ。」


「君を一人にはできない。」


いつもの穏やかなノクトからは想像もできない、強い口調だった。


光瑠は思わずノクトを見る。


青い閃光を放ち続けながら、イヴは静かに答えた。


「大丈夫。」


「あの程度の魔物に、遅れは取らない。」


一瞬も魔狼から目を離さない。


「私がここを離れれば、多くの人が犠牲になる。」


「それに。」


「彼を一人で行かせても、術者には辿り着けない。」


ノクトは視線を伏せた。


「……分かった。」


苦しそうにそう答えると、ゆっくりと顔を上げる。


「でも約束して。」


「絶対に無茶はしないで。」


「ええ。」


イヴは静かに答えた。


「何かあったら魔力を込めて。」


「すぐに僕が駆けつける。」


イヴは何も言わない。


ただ、小さく頷いた。


ノクトは光瑠へ向き直った。


「ヒカル、行くよ!」


「早く片付けて戻ってこよう。」


「ああ!」


光瑠は力強く頷く。


「少し待ってて。」


「今、道を作る。」


イヴが静かに片手をかざした。


「……いや。」


「道は、僕が作るよ。」


ノクトは一歩前へ出る。


その瞬間。


ノクトの周囲へ熱風が渦を巻いた。


紫紺の瞳が鋭く細められる。


『本気になったノクトは、私よりずっと強いわよ。』


以前、イヴが口にした言葉が光瑠の脳裏をよぎった。


ノクトは静かに詠唱する。


「――ヴェリア・イグナ。」


頭上に、巨大な炎の剣が姿を現す。


まるで夜空を焦がす、灼熱の刃だった。


次の瞬間。


巨大な炎剣が、夜空を断ち切るように振り下ろされた。


轟音と共に、紅蓮の奔流が一直線に駆け抜ける。


魔狼たちは悲鳴を上げる暇もなく焼き払われ、一直線に炎の道が切り開かれた。


「なっ! 熱っ!」


炎に触れたわけでもない。


それでも押し寄せる熱気に、光瑠は思わず両腕で顔を庇った。


「行くよ、ヒカル。」


呆気にとられる光瑠へ、ノクトは静かに声をかける。


「あ、ああ……!」


光瑠は頷くと、ノクトと共に炎の道を駆け抜けた。


――


路地へ足を踏み入れた、その瞬間。


奥から一匹の魔狼が飛び掛かってくる。


「うわっ!」


光瑠が思わず身構えた。


「――イグナ。」


ノクトが短く唱える。


放たれた炎は一直線に魔狼を飲み込み、黒い粒子だけを夜空へ散らした。


さらに二匹、三匹と魔狼が姿を現す。


だが――


飛び掛かるより早く、次々と炎に呑まれ消えていく。


「ノクト、助かる!」


光瑠はノクトの援護を受けながら、路地の奥へと駆け抜けた。


「んー……。」


ノクトが前を見据えたまま、小さく呟く。


「逃げてるね。」


「逃げてる?」


光瑠は息を切らしながら聞き返した。


「こいつらを操ってる術者さ。」


「魔狼を盾にしながら、奥へ奥へと逃げてる。」


ノクトは迫り来る魔狼を焼き払いながら、小さく息をついた。


「全く……。」


「面倒をかけさせないでほしいんだけどなぁ。」


――


広場では悲鳴が絶えない。


それでも、一人として魔狼の牙に掛かる者はいなかった。


「――リア・シエル。」


夜空に浮かぶ青白い星々が、一斉に閃光を放つ。


魔狼は次々と光に貫かれ、黒い粒子となって消えていく。


「少し、減ってきたかしら?」


イヴは静かに魔狼の現れる方角へ視線を向けた。


現れる位置が、少しずつ広場から遠ざかっていく


――


光瑠は魔狼が現れる方向だけを頼りに、路地の奥へ駆け続けた。


やがて辿り着いたのは、袋小路。


その先で、一人の男が荒く息を吐いていた。


全身を黒いローブで包んだ男。


「はぁ、はぁ……」


男は苦しそうに肩で息をしながら、光瑠たちを睨みつける。


「なんなんだ……お前らは!」


「くそっ!」


男が片手を掲げる。


次の瞬間、背後の闇が蠢いた。


魔狼が姿を現し、光瑠へ飛び掛かる。


「ーーイグナ。」


ノクトの魔法が魔狼を焼き払う。


「諦めなよ。」


「どれだけ魔狼をけしかけても無駄だよ。」


「全部、僕が焼き尽くす。」


「ぐっ……!」


男は悔しそうに歯を食いしばる。


「星の欠片……持ってるんでしょ?」


ノクトの紫紺の瞳が、男の首元を静かに見据えた。


赤く鈍い光を放つ、一つのネックレス。


「……その赤いネックレス。」


「それが『星の欠片』だね?」


男の肩がぴくりと震える。


「それを、こちらへ渡してもらおうか。」


ノクトは穏やかな口調のまま、男へ一歩近づいた。


「星の……欠片……?」


光瑠は意味が分からず、ノクトを見る。


「ふざけるな! これは、俺の――」


男が魔力を練ろうとした、その瞬間。


「させないよ。」


ノクトが静かに呟く。


炎が一直線に走り、男の右足を貫いた。


「ぐあああああ!」


男は膝から崩れ落ちる。


フードが外れ、その黒髪と顔が露わになった。


間違いない。


前の『今日』で遭遇した、あの男だった。


「それを渡さないなら。」


「次は左足。」


「その次は、両腕かな。」


ノクトは穏やかな口調のまま言った。


「……順番に焼くことになるけど。」


容赦のない言葉に、光瑠は思わず目を見開く。


普段の穏やかな笑顔からは想像もできない。


冷徹な一面だった。


「ひぃっ!」


「わ、分かった……!」


「助けてくれ!」


男は震える手で、首元のネックレスを外した。


「僕も人を拷問する趣味はないんだ。」


「素直に従ってくれるなら助かるよ。」


ノクトは穏やかな口調で言う。


「それを、こっちへ投げて。」


男は言われるがまま、ネックレスを放り投げた。


光瑠はとっさに手を伸ばし、それを受け止める。


掌の上で、赤い結晶が鈍く脈打つように輝いていた。


「これが……星の欠片?」


「ヒカル。ちょっと見せて。」


光瑠は赤い石の欠片をノクトへ差し出した。


「僕とイヴは、ずっとこれを探し続けていたんだ。」


ノクトは静かに石を見つめる。


「……なるほどね。」


「何か分かったのか?」


「とりあえず、これ以上魔狼は現れない。」


ノクトは赤い欠片へ視線を落としたまま続ける。


「この石を媒体に、転移魔法が発動していたみたいだ。」


「転移魔法……?」


「詳しい説明は後だ、ヒカル。」


「その前に――」


ノクトは男へゆっくりと向き直った。


「君は、どこでこれを手に入れたのかな?」


男はびくりと肩を震わせる。


その額には冷や汗が滲み、視線が泳いだ。


「い、言えない!」


「また体を焼かれたいかい?」


「い、言えないんだ! 頼む!」


ノクトは目を細めた。


「言ったら……!」


「言ったら、アイツに殺される!」


ノクトは小さく息をつく。


「答えなければ。」


「君は、ここで終わりだよ。」


「ひぃっ……。」


男の身体が震える。


ノクトは穏やかな口調のまま続けた。


「大丈夫。」


「話してくれたら、僕は君を殺さない。」


「騎士団にも事情を説明して、君の身は保護してもらう。」


男は肩で息をしながら、恐る恐る口を開く。


「俺にこれを渡したのは――剣……」


男の言葉が、不意に止まった。


「……え?」


男は自分の胸へ視線を落とす。


「なん……で……。」


突然、胸を押さえ苦しみ始めた。


「ま、まだ……ぐっ……!」


「が……あああああああっ!」


全身を激しく痙攣させ、その場へ崩れ落ちる。


男は激しくもがき苦しみ、やがてぴたりと動きを止めた。


ノクトはすぐに男の元へ駆け寄る。


「……死んでるね。」


「なっ……なんで……?」


誰も触れていないのに、目の前で突然男が死んだ。


ノクトは男の体へそっと前足を添え、残された魔力を探る。


「術者のことを話そうとした瞬間に発動する呪術……ってところかな。」


ノクトは男の亡骸を見つめたまま、ハッと目を見開く。


「ヒカル。」


「悪いけど、急いで広場へ戻ろう。」


「?」


光瑠は首を傾げる。


ノクトは広場の方角を鋭く見据えた。


「イヴが危ない……。」

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