97ーカリーナ様とフラン爺
カリーナ様はフラン爺と一緒に領地のお邸に住んでいて、皆から『大奥様』と呼ばれている。
朱色の瞳から分かるように、強力な火属性魔法の使い手だ。自分はもう引退だとか言うけど、今でもかなりの威力の炎を操る。
真面目で社交の場でも動じないところを見込まれて、フラン爺の奥さんになった。
フラン爺の苦手な社交を、一手に引き受けている。周りに目を配るし度胸が良いんだ。今でも社交会に顔が利く人だ。
学生の頃にフラン爺と婚約したそうだけど、当時は遅い婚約だったらしい。
その話を前の時に聞かせてくれた。
フラン爺が奥手で、遅くなったのだとか。カリーナ様に、フラン爺が一目惚れしたとかなんとか。
実はフラン爺はカリーナ様のことが、子供の頃から好きだったらしい。
でもカリーナ様は子供の頃に会ったことなんて覚えてなくて、しばらくフラン爺は落ち込んでいたらしい。
初恋を長く引きずって、やっとの婚約だったそうだ。
カリーナ様はとっても頼りになる人だ。この人がいなければ、領地はこんなに豊かではなかっただろうと言われるほどだ。
だってフラン爺は素直過ぎて、領地経営には向かないらしい。
とはいってもフラン爺は、男性陣から妙に敬われていたりする。その真っ直ぐな性格故に、学生時代から色々逸話を残している。
だからフラン爺の領地には手を出すなと、暗黙の了解になっているそうだ。俺は詳しくは知らないけど。
今は優秀な旦那様と、カリーナ様とで領地は安泰。だからフラン爺だって呑気に孫の顔を見にくることができる。
そんな感じで、しょっちゅう黙ってやって来るフラン爺にカリーナ様は手を焼いている。
親方に会話のできる魔道具を作って欲しいと、依頼したのもこの人だ。
先見の明があるとでもいうのか? フラン爺ならこうするだろうと、大抵のことはバレている。この人には敵わないんだ。
だって惚れた人には敵わないっていうの? フラン爺はカリーナ様にはとってもとっても弱い。
今だってカリーナ様を目の前にして、直立不動で冷や汗を流している。
「カ、カ、カリーナ!」
「あなた、一体何をしているのですか!? また黙って領地を空けて!」
「いや、今回は手紙をだな」
「あんなの手紙のうちに入りませんよ!」
ほら、もう怒られて小さくなっている。これはいつものことだ。
カリーナ様がこっちに向かっていると分かってから、こうなるだろうなと思っていた。
だからちゃんと話してからくれば良いのに。
「だって、行きたいと言っても駄目だと言うだろう?」
「当たり前です! こんなにしょっちゅう出かけて、領地をどうするおつもりなのですか!?」
「いや、それは……その……でも、会いたいのだ! 可愛いネネとブレイズに!」
「それは私も同じですッ!」
ほら、全然勝てない。まるで駄々っ子だ。親父まで、ワッハッハッハと笑っている。そんなに笑ってもいいの?
俺は親父の側で黙って見ている。視界の隅っこにお嬢をしっかり捉えながら。
フラン爺がカリーナ様に叱られて、降りたブランコ。そこにお嬢がトコトコと歩いて行った。
おっと、乗るつもりなのか? なら俺は側に行かないと。
そう思って動いた俺の前を、ブレイズ様が走って行った。
「ちっ」
「ベル! だからその舌打ちはなんだッ!」
だっていっつも邪魔するから。人の恋路を邪魔するなんて性格悪いよ?
俺はお嬢と一緒に乗ろうと思って、ブランコを作ってもらったの。お嬢と一緒に、うふふと乗るの。だから邪魔しないでね。
「ベルにネネは任せられない!」
「だって、ブレイズちゃまは、へたっぴ」
「なんだと!?」
「アハハハ!」
ヴァシリー、そこは笑ってもいいのか? 一応、ブレイズ様の従者だろう? でも本当に下手っぴだもん。
「ベル、これどうやってのるの!?」
ほら、お嬢が俺をご指名してくれてる。うひょひょと走って行く。
「待て、ベル! ネネには僕が教えるんだ!」
はいはい、煩いよ。お嬢が俺に聞いたのだから、諦めてね。
ブレイズ様をスルーして、俺はブランコの側にいるお嬢に言った。
「おじょう、ここにちゅわって」
「ええ」
「ちっかりもってね」
「ええ、わかったわ」
「いくじょ」
せーので俺はゆっくりとブランコを押した。お嬢が乗っているブランコをそっと動かす。
怖くないか? そう思って最初は手加減をして押したのだけど。
「ベル、もっとちゅよくおちて!」
「こわくない?」
「こわくないわ!」
「よちッ!」
俺はお嬢が座っている外側に足を乗っけて、ブランコに立った。そして、思いっきり漕ぐ。
勢いをつけて、空に飛んでいくぞというくらいに。風がお嬢のスカートをフワリと揺らして髪が靡く。
「ベル、ちゅごいわ! とってもきもちいいわ!」
「ベル! 危ないじゃないか!」
こうしてお嬢と一緒に乗りたかったんだ。
お嬢が不安に思っている気持ちとか、心にモヤモヤしているものとか、全部吹き飛ばすには足らないだろう。
でも少しはスッキリするかなって。そうして欲しいなって思って俺はブランコを漕ぐ。
「おじょう! おれがちゅいてる!」
「ええ、ベル!」
「いちゅでも、おれはおじょうのみかたら!」
「ふふふ、ちってるわ!」
知ってるだって。そっか、分かってくれているんだ。
お嬢、何も心配することないんだ。いざとなったら、竜族の里へ一緒に行こう。俺はいつでもお嬢と一緒だ。
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