95ーあーん
俺って今、一日何回食べてるんだ? 朝食を食べて、昼食までに軽いのを食べて、昼食から夕食までにオヤツを食べて。
料理長ったら、食べさせようとムキになってないか?
ブランコに乗っている俺を見て、呆れ気味に親父は言った。
「またお前は何をやってるんだ」
「おやじ! きもちいいじょー!」
「ベル、軽く食っとけ」
「おー!」
ブランコが一番高くなった時に、俺はピョンと飛び下りた。両手を斜め上に広げて、10点満点の着地のポーズだ。
「ベル、飛び下りたら危ないじゃないか!」
「へいき!」
ブレイズ様ったら一応心配してくれる。本当は優しいのに損な性格をしてるぜ。
近くにあるベンチに座ると、ガンちゃんが肩から降りてきた。一緒に食べるらしい。
ガンちゃんは太らなくていいのだろう? 十分にムッチムチな体をしているぞ。
「ベル、なんでやねん」
「ぷくぷくになるじょ」
「なれへんっちゅうねん。ワイのナイスバディーを見てみぃっちゅうねん」
今日は何かな~? え……またかよ!
「おやじ、またむちぱん」
「これが一番消化がいいって、料理長が言ってたぞ」
「えー、もうあきた」
「な、毎日やもんな」
「ちょうちょう」
「文句を言わずに食っとけ」
「おー」
まあ、有り難くいただくけど。あれ、今日はバナナの蒸しパンだ。優しい甘さがいいね。
俺が食べている間、ブレイズ様がブランコに挑戦だ。
乗れるか? 初めてだろう? まあ、黙って見ていよう。
座ってブランコを漕ごうとするのだけど、勢いが足りない。全然漕げてないじゃないか。プラ~ンプラ~ンと動いているだけだ。
「ブレイズちゃま、もっとうちろにいってから、おもいっきり!」
「そうか、分かった!」
さっき俺が漕いだのを見ていただろう? それを思い出して、ブレイズ様が後ろまで下がり弾みをつけてから勢いよく漕いだ。その割に勢いがない。
これってもしかして、ブレイズ様は恐々乗ってるのか? それでもとっても良い笑顔だった。
「アハハハ、これは楽しいな!」
全然勢いが足らないと俺は思うのだけど。
しかも巻き戻す前のブレイズ様は22歳だったのだぞ。その時の記憶があるのに、とっても無邪気にブランコなんかで遊んでいる。やっぱこれって、ちょっぴり。
「きっしょ」
「なんでそこでキモイと言うんだ!?」
あ、聞こえちゃった? だって22歳だったのにって思うじゃん?
「作ったのか?」
「おやじ、おじょうとのる」
「お前はブレないな」
「あたりまえ」
「そうだ、親方に作って欲しい物があるんだ」
親父が親方に何かを依頼するらしい。
この邸にいる者はみんな知ってしまった。話せる魔道具のことを。そしてその便利さを。
これって走って知らせないで、よくなるんじゃね? てさ。
それを、モグモグモグと蒸しパンを食べながら聞いていた俺が、一つアドバイスをしてやろう。
「いんかむ」
「あん? ベル、何だって?」
「このおやちきの、なかだけでいいなら、もっとこがたでいい」
だからインカムだよ。よくどこかの店員さんとかが、耳につけてるだろう?
それは皆が聞いても良いのだから、今改良している魔道具より単純だ。
軽くして、常に耳に掛けていても負担のないように。あっちもこっちも同時に喋ったら訳が分からなくなるから、魔力を流している時だけ話せるようにする。受信はいつでもできるようにしてさ。
こんな感じと、また絵に描いてみる。
「ピンマイクにちて、えりとかむなもとにちゅけたらいい。じゅちんきは、ませきをおっきくちてベルトとかにちゅける」
「おい、ベル。ピンマイクって何だ?」
おっと、そこから説明しないといけないか。
「ちゅごく、ちっちゃなマイク」
「だから、マイクって何だ?」
「こえをひろうとこ」
「そこを凄く小さくするのか?」
「ちょうちょう」
口の近くにつけたら、そんなに大きくなくても大丈夫だろう? 使用人が使うのだから、意匠に凝らなくてもいい。丸いフワフワな感じにしたら可愛いかも。
「なるほど、これは便利だな」
「門兵が走らなくても、即時に知らせることができるだろう? メイドでもそうだ。こっちはセッティングOKみたいにな。料理長なら、次ができたから運んでくれとかだ」
そう要望が出たらしい。いいんじゃね? 超便利だ。
「よし! これも作るぞ!」
親方が張り切っちゃってる。鍛治に特化したドワーフなのに、魔道具師になっちゃってる。
モグモグと食べながら様子を見ている俺。その俺のお嬢センサーがピコンと反応した。
いや、勝手にセンサーとか言ってるだけなんだけど。
「なにちてるの〜?」
「おじょう!」
こっちこっちと、手招きする。ここに座ってと、ベンチを手でパタパタして綺麗にしているつもり。
「ベル、おやちゅたべてるの?」
「うん、おじょうもたべる?」
「あたちは、おなかいっぱいだわ」
「ちょう? おいちいよ、ひとくちだけたべる? あーんちて」
「ふふふ、あーん」
うひょひょ、お嬢の『あーん』いただきましたぁーッ!
「こらー! ベル! 何をしてるんだー!」
もう少しでお嬢の可愛らしいさくらんぼ色したお口に、蒸しパンを入れるぞってとこでブレイズ様がお邪魔してきた。ガシッと手を掴まれちゃった。
「ちっ」
「舌打ちしたいのは僕だ! ベルは、ちょっと目を離すと油断も隙もないな!」
「ちょーうじぇー」
「うるさい! ネネ、ベルに近寄ったら駄目だぞ! ベルは狙っているからな!」
「うふふ」
なんだよ、『あーん』くらいいいじゃん。減るわけじゃなし。
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