89ー王も欲しいって
一緒に来ていたのに、一人落ち着いてお茶を飲んでいた奥様が話を戻してくれた。
「陛下、魔道具なら今色々改良しているそうですわ」
そうそう、改良してるんだ。だから、第1王子が持ってるのもそのうち回収するよ。
ん? 待てよ。王子も魔道具を持ってる……え?
「ぐふふ」
あ、旦那様が笑いを堪えてる。これって、やっぱそうか?
王子に、俺のモーニングコールを聞かれちゃってるか?
「ベル、だからはよ改良してもらいって言うたやん」
「ちょうちゅる」
いかんね、王子まで考えつかなかった。王子にお嬢の可愛い声を、毎朝お届けする必要はない。
「ベル、そことちゃうで」
「ちょう?」
「そうやな、毎朝ベルがお嬢に言い寄ってる内容が問題やな」
言い寄ってるなんて失礼な。お嬢との意思疎通を兼ねて、俺の純粋な気持ちをお届けしてるんだぞ。
「なんだ? ベルが何かしているのか?」
「いえ、陛下がお気になさることではありません。お遊びです」
旦那様、お遊びなんて失礼な。純愛だっつーの。筋金入りだぞ。何しろ時を巻き戻す前からだからな。
「ベルは不憫な奴やで」
不憫とか言うな。なんだか悲しくなるから。とっても自分が、かわいそうに思えてくるから。
「なら、改良したら私も欲しいぞ」
ほうほう。だってさ、旦那様。王がああ言ってるよと、旦那様を見る。
「ベル、私か?」
「だって、だんなちゃまだから」
「ふふふ、でも改良しているのはベルでしょう?」
「おくちゃま、ちげー。ちてるのは、おやかた」
「あら、そうね。あなた、親方に今度は多めに作ってもらいましょう」
「そんなに必要か?」
「だって、私の分はブレイズに取られちゃいましたわ」
お茶会の時に、奥様は映像を記録する魔道具をつけていたからだ。
ブローチ仕様にしてあるから、ブローチを二つもつけるのは変だろうとブレイズ様が説得した。
あれからブレイズ様は、奥様に返却していない。
毎朝俺が、お嬢に愛を囁いているのを聞いて文句を言ってくる。聞かなくていいのに。
「そうだ、ベル。あの時ベルは瞬時にネーネルヴァ嬢の前に出ただろう!? あれは何だ? どうやったんだ?」
えっと、俺がお嬢と第2王子の間に割って入った時か?
「ちゅんかんいどう」
「なんだって?」
「だから、ちゅんかんいどう」
王がキョトンとしている。分からないか? でも何度言っても同じだぞ。
今すぐ俺の舌足らずが、改善されるわけじゃない。
「陛下、瞬間移動と申しているのではありませんか?」
おう、側近の方が分かってるじゃないか。
「ちょうちょう。ちゅんかんいどう。びゅって」
「そんなこともできるのか!? ガンちゃんの転移かと思っていた」
「ちょれほどじゃなかったち」
「ま、わいの転移ほどと、ちゃうけどな」
だって竜族は、ばびゅーんて飛べるから転移なんて必要ないんだ。
「今はそんなに飛ばれへんやん」
「ん、ちびっこだから」
けど、あの時あれでまだ王子が言い寄ってくるなら、お嬢を背負って飛ぶつもりだったけどな。
「ちょっと待て! もしかして、ベルも飛べるのか!?」
「らって、ドラゴンだから」
あれれ? だって竜族だって言ったじゃん。
なんでそんな、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているんだ?
「ベル!」
またまたイケオジの王が、俺の両肩をガシィッと掴んできた。
なんだよ? お茶会で王妃に向かっていた時と、キャラが違いすぎるぞ。
「陛下、駄目です」
「いや、だってだな!」
「騒動になります」
「見てみたいだろう!」
旦那様と奥様が、必死で笑いを堪えている。うん、それは俺にも分かる。
だって王は、俺がちびっ子だってことを忘れている。
そりゃ普通にでかいドラゴンが飛んでたら、騒動になるけどな。
「ちび」
「ん? ベル、なんだ?」
「だから、チビドラゴン」
「ワッハッハッハ! チビなのか!」
「ちょう、まらチビ」
「それはそれで見てみたい!」
懲りない王だな。仕方ねーな! なら俺の超プリティーな、チビドラゴン姿を見せてやろう!
意気込んで立ち上がると、旦那様に止められた。
「ベル、やめなさい」
「あい」
おとなしくクッキーでも食べていよう。と、奥様の隣にちょこんと座る。
「ワッハッハッハ! ホルハティ家は楽しいなッ!」
そう? いつもこんな感じだよ。
「フランヴァに見せてもらったが、夫人が持っていた魔道具も素晴らしい。鮮明に撮れていた」
そう? もう見たんだ。奥様が、バッチリ撮っていただろう?
「今回は助かった。しっかり証拠があるから、王妃は言い逃れできない」
な、やっぱ撮っておいて良かったぜ。
王が言うには、最近王妃派なるものを作ろうとしていたらしい。王妃自身と王妃の実家が扇動してだ。
こんなに権力を持てますよ〜なんて餌をチラつかせて。
それをいち早く察知した王は、その企みを潰したかった。
そして今回のことで、その王妃自身が謹慎の身となってしまった。
そんな王妃のために、何かをしようなんて者はいない。誰も近寄らない。だって我が身が可愛いから。
「王妃も若い頃はああではなかった。シュテファンに見限られたことも、ショックだったのだろう。だが、それは自業自得だ」
第1王子は話してた。自分を支えてくれたのは、婚約者の令嬢だって。王妃は、厳しいという言葉以上だったって。
それでも王妃は、自分が慕われていると思っていたのだろうか? それは甘い。甘すぎるぜ。




