87ー俺の純愛
俺の後ろに庇っているお嬢に、王は優しく声をかけた。
「君がネーネルファ嬢だね」
王に名前を言われて、お嬢は俺の背中から戸惑いながら出てきて礼を取る。
良かった、少し落ち着いているみたいだ。
「は、はい。おはちゅにおめにかかりまちゅ」
「お利口な子だ。怖い思いをさせてすまなかったね」
「い、いえ」
「陛下、もったいないことにございます」
「夫人も悪かった。皆も邪魔をした。今日は交流を目的にしている。気楽に楽しんでほしい」
軽く手を上げて、王は王子と一緒に去って行った。
いや、びっくりだ。まさか王の登場なんてと、皆が思っている。
俺って、とっても目立っちゃったけど。もう大丈夫だろう。
「おじょう、らいじょぶらよ」
「ベル、ふ、ふえーん……ベルー!」
おやおや、安心したからかな? また泣いちゃった。何があっても俺が守るから大丈夫だ。
「よちよち、だいじょぶ」
「ふふふ、ベルがいると安心ね」
俺はお嬢の背中をそっとナデナデしながら、奥様に聞いた。
「おくちゃま、ちゃんととった?」
「ええ、ばっちりよ」
「よち!」
ほら、もう泣かなくてもいいぞ。アイレがハンカチでお嬢の頬を拭いている。それでもお嬢は俺の服をキュッと握って離さない。
くぅー! もうその仕草が、とんでもなく可愛い。何をしていても可愛いのだけど、思わずデレッとしちゃうよね。
しかも俺にしがみ付いて泣いているんだぞ。そんなの抱きしめるしかないじゃないか。
お嬢を抱きしめたくて、手を回そうとした時だ。パシッとアイレに手を掴まれちゃった。
「ベルちゃん、あとは私が」
「え……アイレ、ちょう?」
「はい。お嬢様、もう大丈夫ですよ」
「ええ、ありがと」
ええー、俺はお嬢を抱きしめたかったのに。
アイレったら空気を読んで。ちょっとくらい、いいじゃん。
「さあさあ、皆様。お騒がせしてしまいましたわ。改めまして、お茶会を楽しみましょう」
奥様が皆にそう言って、場を仕切り直した。
「おじょう、おれはアイレと、むこうにいる」
「ええ、ベル。ありがと」
よしよし、良い子だ。思わず頭をポンポンしちゃった。
うひょ、無意識だったけどお嬢の頭を触っちゃった。今日は帰っても手を洗わねー。
「ベルちゃん、行きましょう」
「おー」
いつまでもお嬢のそばから離れようとしないから、アイレに引っ張って行かれちゃった。
アイレ、待って。そっちの手はお嬢をポンポンした方だから、手を繋ぎたくないんだって。俺の純愛を分かってほしい。
奥様が仕切り直したけど、まあ今更どうしろっていうんだ? て感じだ。主催者の王妃がいなくなっちゃったし。
でもちびっ子たちは、各々お友達を作ったみたいだ。お嬢も、他三家の公爵家のちびっ子と交流していた。
その後は何事もなく、無事にお茶会は終わった。
この時はこれで収まったと思っていた。王が王妃に注意してくれたし、証拠もしっかりと撮ったし。
まさか今回のことが、王妃のお嬢への執着に繋がるなんて思いもしなかったんだ。
その日以降、王妃は本当に公の場には出てこなくなったからすっかり忘れていたこともある。
王は公の場でも、側室を伴うことが当たり前のようになっていた。王妃は体調を壊して療養中だと公表された。
まあ、そんなことはないのだろう。きっと謹慎ってやつだ。
近いうちに別宮に移られるんじゃないかと、噂されている。王妃と一緒に第2王子もだ。
だが、第2王子は教育係を一新しようとしているらしい。それがなかなか進まないそうだ。
何故なら、『自分は王子だぞ!』て悪い意味での刷り込みが酷いらしくて、教育係を受ける者がいないらしい。
こうなったら、王が直々に意識改革をするか? なんて話もあるそうだ。
だって、王子より王の方が偉いから『自分は王子だ!』は通用しない。王も頭を悩ませているとか。
でも王子はまだ4歳だ。将来を今の時点で潰すのはかわいそうだと、王の親心だ。
お嬢との婚約が無くなりさえすればそれでいいから、勝手にやってくれと俺は思っている。
このお茶会の後、俺は奥様と一緒に城に呼ばれた。なんで俺なの? と思いながら旦那様の執務室へ行くと、そこにはまたあの王がいた。
嬉しそうな表情をして、ソファーに座っている。
この王はフットワークが軽いのか? 普通は自分の部屋に呼び出さない? どうして自分から足を運んでいるんだ?
「ベル、フランヴァに聞いて驚いたぞ!」
え? なにが? て話なんだけど。いきなりそんなことを言われても、俺は何のことなのかさっぱり分からない。
「えっちょぉ……?」
「陛下、落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるか! そんな魔道具を見たことも聞いたこともないぞ!」
ああ、魔道具の話ね。それなら俺より親方だ。旦那様がため息を吐きながら教えてくれた。
「ベル、話せる魔道具だ」
「あー、もち~?」
「そうだな」
「なんだ? もち~ってなんだ?」
「陛下、ですから少し落ち着きましょう」
さっきから、落ち着こうと言ってくれているのが、王の側近だ。
確かに今までなかった魔道具なのだけど、要改良なのだ。
だって魔力を流すと、これを持っている全員が聞くことができるんだ。
それってどうなの? て思わね? だって俺がお嬢に愛を囁いているのが、みんなに聞かれちゃうんだよ。それはいかん。とっても拙い。
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